『新「帝国」アメリカを解剖する』(佐伯啓思著:ちくま新書)を読了しました。
古書店の書棚で偶然見つけたもので、発行年月日も古いですが、十分に役に立ちました。
その一つが、アメリカの重要な思想伝統の「リベラリズム(自由主義)」についての記述です。
・ヨーロッパとアメリカにおいて、リベラリズムの意味内容が異なっている。
特にイギリスにおいては、リベラリズム(自由主義)は、「マンチェスター学派」の唱えた
市場経済の自由競争、自由貿易などのイデオロギーと結びついたある特定の階級的利益を想起させる。
それは、より上層の貴族的精神(ノブレス・オブリージュ)をもった「保守主義」とも、
また労働者層を中心に社会的平等を訴える「民主主義(社会民主主義)」とも異なっている。
・ところが、そもそもヨーロッパ的な意味での階級をもたないアメリカにあっては、
個人の財産の尊重や経済的な自由競争、自助努力や勤勉の精神などは、
ある特定の階層のエートスなのではなく、建国以来の「アメリカ人」なるものの
典型的な倫理にほかならない。つまり、イギリス人がリベラリズム(自由主義)と呼んだものは、
アメリカの建国の精神そのものであった。
・その結果、その建国の精神に常に立ち返ろうとするアメリカの「保守主義」は、
事実上、イギリスで言う「リベラリズム(自由主義)」にきわめて接近することになる。
もう一つは、その「アメリカ建国の精神」についての記述です。
・アメリカが西欧から受け継いだもの、それはギリシャやローマの古典世界をモデルにした政治思想や
哲学的思考と、プロテスタント・キリスト教の精神であり、西欧から切断されるもの、
それは封建体制や階級構造である。アメリカの建国の精神を次の三つに集約する。
①共和主義(リパブリカズム)の精神、②自由主義の精神、⓷ピューリタリズム、がそれだ。
以上、備忘録としてこの日記に残しておくことにしました。
佐伯先生らしい、分かりやすい文章であったことも付言しておきます。
さて、いよいよ「アメリカ大統領選挙」が目の前に迫ってきました。
報道に接しても、お互いの弱点を指摘するばかりで、肝心な政策論争がおろそかになっているみたいです。
いまこそその「建国の精神」を思い起こすことが必要なのかもしれません‥‥。