『非色(ひしょく)』(有吉佐和子著:河出文庫)を読了しました。
終戦直後に黒人兵と結婚し、幼い子を連れニューヨークに渡った
笑子(えみこ)という主人公の生きざまを描いた本書には、強烈に印象に残る、次の二つの記述がありました。
『金持ちは貧乏人を軽んじ、頭のいいものは悪い人間を馬鹿にし、
逼塞して暮らす人は昔の系図を展(ひろ)げて世間の成上りを罵倒する。
要領の悪い男は才子を薄っぺらだと言い、美人は不器量ものを憐み、
インテリは学歴のないものを軽蔑する。人間は誰でも自分よりなんらかの形で以下のものを設定し、
それによって自分をより優れていると思いたいのではないか。
それでなければ落ち着かない。それでなければ生きて行けないのではないか。』
『私は今こそはっきりと言うことができる。
この世の中には使う人間と使われる人間という二つの人種しかいないのではないか、と。
それは皮膚の色による差別よりも大きく、強く、絶望的なものではないだろうか。
使う人は自分の子供を人に任せても十分な育て方ができるけれども、
使われている人間は自分の子供を人間並みに育てるのを放擲して働かなければならない。
肌が黒いとか白いとかというのは偶然のことで、
たまたまニグロはより多く使われている側に属しているだけではないのか。
この差別は奴隷時代からも今もなお根強く続いているのだ。』
そして、本書の最終局面で書かれた「私も、ニグロだ!」という主人公の力強い宣言は、
それからの希望に満ちた逞しい人生を想像させるものがありました。
「人種差別と偏見」について考えさせられる本書(文庫本)は、「傑作中の傑作」だと私は思いますが、
後藤美奈子さんの秀逸な「解説」も、その価値を高めていると思います‥‥。
追記
たまたまというか、NHKの「100分de名著」は、今日から「有吉佐和子スペシャル」が放映されます。
こちらも楽しみに視聴したいと思います‥‥。