しんちゃんの老いじたく日記

昭和30年生まれ。愛媛県伊予郡松前町出身の元地方公務員です。

理性の君主

昭和天皇〜理性の君主の孤独」(古川隆久著:中公新書)を読了しました。
思想的な色彩がなく、冷静に客観的に書かれた一級の本でした。

著者は「おわりに」の箇所で、本の要約ともいえるように、次のように書かれています。
『全体として、昭和天皇は、
 儒教的な徳治主義と、生物学の進化論や、
 吉野作造美濃部達吉らの主張に代表される
 大正デモクラシーの思想といった西欧的な普遍主義的傾向の諸思想を基盤として、
 第一次世界大戦後の西欧の諸国、
 すなわち、政党政治と協調外交を国是とする民主的な立憲君主制を理想としつつ、
 崩御にいたるまで天皇としての職務を行ったことが浮き彫りとなった。
 唯一の例外は1940年夏から45年7月までの時期である。
 昭和天皇は、内外の政情や思想状況、
 側近の顔ぶれがあまりに変化して思想的にすっかり孤立してしまい、
 自身の政治思想の正当性に自信が持てなくなってしまっていたのである。』

私が一番印象に残ったのは、終戦の「聖断」の箇所です。
太平洋戦争における日本の戦死者約175万人の過半数と
民間人死者約80万人のほとんどがサイパン陥落以後で、
しかも、アジアにおける戦闘地域や交戦国においても、
数百万人とも、一千数百万人ともいわれる多大な犠牲者を出したそうです。

昭和天皇の「聖断」が「もう少し早ければ……」とも思いましたが
当時はとてもそんな状況ではなかったことが理解できました。
ただ、著者によると、
「聖断」まで時間がかかったことは、
昭和天皇の後半生を悩ませる戦争責任問題が生じることになったそうです。

この本を通じて、昭和天皇の政治思想形成と仕事ぶりを知ることができました。
改めて「理性の君主」として平和を希求した昭和天皇の「偉大さ」を認識した次第です。
是非一読をお薦めします。

昭和天皇―「理性の君主」の孤独 (中公新書)

昭和天皇―「理性の君主」の孤独 (中公新書)