『開高健の名言』(谷沢永一著:KKロングセラーズ)を読了しました。
この本の第十一章・「開高評論」で、開高健は、
中島敦の作品は、「当時の作者の年齢を考え合わせれば、
端正、荘重、ほとんど稟質そのものといいたいみごとさ」と評価する一方、
高橋和巳の作品を読むのは、「生理的に耐えられないような性質の苦痛だった」と
書いています。
谷沢さんの解説では、
高橋和巳の作品は党派色を帯びた煽動的な辞彙で、
開高健にとっては異域の人だったらしく、
また、中島敦の作品に関連して、
開高健は、燈明であたたかく鋭いユーモアを何よりも尊重していた、
と述べられていました。
「高橋和巳」と「中島敦」、
どちらも私の好きな作家だけに興味をもって読みました。
名言が盛りだくさんの本でしたが、
やはり私は、次の「短文」についての名言が一番のお気に入りです。
『短文を書くのはむつかしい。
長文を書くのもむつかしいが、短文では別種の苦労で背中が痛む。
言葉を煮つめ、蒸溜し、ムダをことごとく切って捨てながら
しかも事の本質をつかまえて伝えなければならない。
これが容易ではないのである。
明晰でなければならないのにサンシング・アンセイド(語られざる何か)を
背後に含ませねばならない。
百語を一語に縮めながらものびのびしていなければならない。
しばしば最小を述べつつ最大を感じさせなければならない。
語らなければならず、説いてはならず。
過去を現在と感じさせ、茶飲み話なのに
どこかに啓示の気配もそえなければならない。』
開高健の珠玉の名言の数々と
谷沢さんの鋭い解説が同時に味わえるという、
ちょっと贅沢な本だと思います。

- 作者: 谷沢永一
- 出版社/メーカー: ロングセラーズ
- 発売日: 2009/05/01
- メディア: 単行本
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