『ポケモンGOというゲームが大人気だそうだ。ひとごとのようだが、致し方ない。
この手のゲームには疎い上に、そもそもスマホを持っていないので、
興味の持ちようがないのである。
ゲームの中でのモンスター探しがGPS機能を使って、
現実の街路や公園などに転移しているということだそうで、
要するに、バーチャルな世界がいつの間にかリアルな世界へとスライドするらしい。
というわけで、別にポケモン・ブームを論評するつもりもなく、
またその資格もない。』
う~む、……。これはまるで私のことを言っているようです。
でも実のところ、この文章は、昨日8日の産経新聞Web版に掲載された
佐伯啓思・京都大学名誉教授のコラムの書き出しの部分なのです。
今の職場で若手職員に、「ガラケーでポケモンGOはできないの?」と
初歩的な質問をして恥ずかしい思いをした私……。
ポケモン・ブームについていけないのは、私だけではなく、
著名な佐伯先生も同じと知って、少し安堵しているところです。
ただ、私と佐伯先生との洞察力の違いは歴然としていて、
佐伯先生は、戦後の焼け跡を舞台に、女性たちに希望を与えるべく
「暮らしの手帖」という雑誌を創刊する、
NHK朝の連続ドラマのヒロインを持ち出し、
雑誌のなかのバーチャルな「暮らし」とリアルな「暮らし」の話しをされたうえで、
次のように述べられていることです。
『焼け跡に作られた闇市のなかに、人々はさまざまな「宝物」を探し求めた。
詐欺師もいただろうし、まっ正直なものもいたであろう。
しかし、人々は必死で本物の「モンスター」を探したのであろう。
それから約70年が経過した。人々は実に気楽で無邪気にモンスターを探している。
そのことに苦情を述べる気は毛頭ないが、しかしまた、それを、
無条件で日本の技術の進歩や日本の誇りというには抵抗を感じるのである。』
必死で「リアル」な「モンスター」を探す終戦直後の行為と
無邪気で「バーチャル」な「モンスター」を探す今現在の行為……。
戦後70年が経過して、物質的に豊かになった日本を素直に喜んで良いのか、
佐伯先生のコラムを読んで、正直、分からなくなりました。