今日の日経新聞一面コラム「春秋」は、次のような内容でした。その全文を引用させていただきます。
『「名もなく貧しく美しく」。昭和の時代、しばしば耳にしたフレーズだ。
ろうあの夫婦が戦後、焼け野原となった東京の片隅で苦難に負けず、支え合い、貧しくとも誠実に生きる。
同題名の映画は所得倍増計画が発表された翌1961年に封切られ、多くの人が涙した。
国民はやっと豊かさを実感し始めたばかり。
貧困を当事者自身のせいにする風潮も、今日でいう格差の概念もなかった。
それでも劇中、高峰秀子扮(ふん)する妻は、生きづらさのあまり家を出る。
小林桂樹演じる夫は手話で切々と訴える。
「結婚した時、二人は一生仲良く助け合ってゆきましょうと約束したのを忘れたのですか」
対照的な夫婦の物語が小津安二郎監督「お茶漬の味」(52年)である。
夫を蔑(ないがし)ろにし派手に遊び歩く妻と、そんな妻を叱ることもできない夫の姿をコミカルに、
かつ哀感を交えて描き出す。何不自由なく、長い年月をともに暮らしているのに、
育ちの違いからくる価値観や習慣の差は埋めがたく、互いに孤独を抱えている。
そんな二人が最後に茶漬けを食べながら、しみじみ語る名場面がある。
珍しくしおらしい態度を見せた妻に夫が言う。「夫婦はこのお茶漬の味なんだよ」。
わかり合えなくても、違ったままでも、1杯の茶わんの中で滋味を醸すものだ、と解釈した。
秋の好日、新しい人生を歩み出したすべての夫婦に思いをはせつつ――。』
このコラムには、「小室」とか「眞子」という言葉は一度も登場しないけれど、
一人の民間人となられた「眞子さま」の前途を祝福し、そして温かく励ます気持ちが、
その行間にさりげなくにじみ出た、とても味わい深いコラムだと私は感じました。
少し辛口には感じたものの、
「いい文章は小手先では書けるものではない」ということが、よく分かるコラムでした。
私好みのコラムでした‥‥。