しんちゃんの老いじたく日記

昭和30年生まれ。愛媛県伊予郡松前町出身の元地方公務員です。

働くことと労働法

『労働法入門』(水町勇一郎著:岩波新書)を読了しました。

大学で労働法の教科書を読んで以来、

ほぼ40年振りに労働法について書かれた本を読みました。

実際に社会人生活を経験してから読むと、とても新鮮な気持ちがしました。

 

まず、労働を取り巻く今日的問題について、本書には次のように書かれていました。

『1990年代以降、労働市場グローバル化や競争激化が進展するなか、

 ふたたび深刻な労働問題が発生している。

 例えば日本では、リストラやコスト削減の波のなかで、

 会社に残された正社員、とりわけ若手社員が担う仕事の量や

 目標管理等によるストレスは増大し、メンタルな病気や過労自殺

 過労死と言った問題が深刻化している。

 その反面では、パート、アルバイト、派遣・請負労働者、ニートなど

 社会的に公正な処遇を受けていない非典型的な労働者や非就業者が数多く存在し、

 ワーキング・プアや格差問題が社会問題として顕在化している。

 激しい競争のなかで、働きすぎ(働かされすぎ)の労働者と、

 働こうと思っても希望通りには働ける場がない者との

 二極化が生じているのである。』

 

そして、日本の労働法の課題としては、次のように書かれていました。

『日本の労働法の大きな課題は、

 より開かれた形で労働者に集団性・連帯性を付与することと、

 労働者個人の人権を尊重することの二点にあると思う。

 しかし、「集団性」と「個人の尊重」とは相互に矛盾しあう性格ももっている。

 この両者を両立させながら実現していくことこそ、

 学問としての日本の労働法学の大きな使命であり、

 日本の労使関係にかかわるすべての人たちにとっての課題である。』

 

なお、本書のなかで私が印象に残っているのは、著者の次のような記述です。

『不条理な事態に直面したときに、

 泣き寝入りしたのでは自分の権利や信念は守れない。

 それだけでなく、法と乖離した実態を容認することは、

 会社側に法は守らなくてもよい、

 さらには、法を守っていては激しい競争に生き残れないという意識を植え付け、

 公正な競争の前提自体が損なわれる事態を生む。

 例えば、違法なサービス残業をさせないと、

 同様に違法なことをしている他の会社と対等に競争できないという状況を

 生みだしたりするのである。それは、現場で働いている人たちの人間性を蝕み、

 結局、そのような組織や社会は長続きしないという結果に陥る。

 このままでは、日本の会社の多くや日本の社会そのものが

 そういう状態になりかねない。』

『国家によって権利や自由が保障されていたとしても、

 それが侵害されている自分の状態を黙認してしまうことは、

 間接的に他人の権利や自由が侵害される、

 すなわち他人を同様の状況に追い込んでしまうことにもつながる。

 自分の権利が損なわれた場合には、誰か(どこか)に相談し、

 適切な行動をとるべきである。』

 

働くことはどういう意味を持つのか、

労働法を社会人生活のなかでどのように生かしていくのか、

本書から貴重な示唆を読み解くことができます。

ですから、特に新社会人の皆さんには、お薦めの一冊です。

 

労働法入門 (岩波新書)

労働法入門 (岩波新書)

 

 追記

労働法にはほろ苦い思い出があります。

というのも、私は労働法の単位を落として、大学を留年してしまいました。

今回、この本を読んで、

労働法をはじめとする「法学の目的」を再認識することができました。

それは、著者が述べられているように「正義を探求し実現すること」。

大学時代に真剣に勉強すべきでした……。(反省)