今日28日に掲載された赤林英夫・慶応大教授の
『幼児教育「無償化」は意味がない』という「私見卓見」を読んで、
幼児教育無償化論に対する認識が改まったように思います。
幼児教育に公的資金を投下する政策には、 所得上昇や経済成長への寄与が高いという
ノーベル賞受賞者のヘックマン氏の研究がエビデンス(根拠)として使われますが、
これは米国と日本の社会的背景の違いを無視しているとして、
赤林教授は次のように述べられています。
『米国は先進国の中で就学前教育(米国は4歳まで)の普及が最も遅れている国だ。
4歳で何らかの幼児教育施設に通っている比率は68%。日本では95%である。
3歳児に至っては日本の69%に対し、米国は39%。
幼児教育の普及はまさに社会的課題なのだ。
日本の4~5歳は就園率を上昇させる余地がほとんどない。
従って4~5歳の幼児教育を無償化することは、
保護者が進んで行ってきた私的支出を税金で肩代わりすることにすぎない。
肩代わりによる社会への直接のリターンはゼロに近く、
これでは幼児教育の資金を調達するための国債発行なども許されない。』
また、無償化が教育格差の解消になるかについては、次のように述べられています。
『保育所や幼稚園の保育料は低所得者世帯では減免措置があるので、
貧困世帯には恩恵はない。一方、保育料を払っていた中高所得世帯には
ゆとりができ、習い事や塾に通わせるための支出を増やすことができる。
その結果、低所得家庭と中高所得家庭の教育支出の格差は広がる可能性が高い。
そう考えると、日本では一律の無償化は必要ないだけでなく、
教育格差のさらなる拡大をもたらす可能性すらある。
~ (略) ~
必要があるとすれば、4~5歳で幼稚園や保育所に通っていない
5%の子どもへの支援と、3歳以下の子どもの教育と保育の充実である。
ここに焦点を当てた政策でなければ意味がない。』
う~む、なるほど……。 幼児教育の普及に関する社会的背景に
米国と日本とでこれほどの差異があるとは知りませんでした。
赤林教授は、「人への投資は収益率が高い」「国際的に見劣りする公的教育費」
と言った大義名分だけが先行して幼児教育無償化政策が作られようとしていて、
「その目的は曖昧で、何が達成できるか」が、
ほとんど議論されていないと指摘されていました。
幼児教育無償化の議論に限らず、「肝に銘ずるべき視点」だと思いました。