『保守の遺言~JAP.COM衰退の状況』(西部邁著:平凡社新書)を読了しました。
書いてあることが難しく、しかもカタカナ英語が多くて、私には読みづらい本でしたが、
それでも読み終えた後は、本は付箋だらけになっていました。
以下、印象に残った箇所のいくつかを書き残しておきたいと思います。
・私は自分の文章が歴史的に残るなどとまったく期待していない。
そんな期待をするのはマスソサイアティの空恐ろしさを知らぬ者の言種である。
マスは現在の一瞬あるいはごく短期の近未来にしか関心を持たぬまま生き延びて、
気が付いたら死んでいる人々のことを指す。
彼らが言葉およびその文体と「接触と脈絡」に一顧だにしないのは、
「言葉は必ず過去からやってくる、言葉の意は他者たちとの討論で鍛えられる、
言葉の意味の基準は伝統によって示唆される」ということを知ろうともしないし知りたくもないからである。
・オルテガのいった「大量人たちの反逆」とは「社会を支配する意志も能力ももたぬ大量人たちが、
その〝自分らの限界に反逆して〟ポピュリズムを通じて社会の各部署における権力機関に
みずからの代理人を送り込み、そしてそのマスソサイアティが機能不全に陥ったら、
有能な人材はいないのか、と歎いてみせる」といった状態のことをさす。
・国際社会とは国家間の敵対と協調の両面にわたる
「実力と外交」による調整の場だということにほかならない。またそれを国内社会においてみれば、
地域社会の復興なしには国家は空洞化するということだ。
この簡明な真実が平和主義や人権主義の美名の下に脇に追いやられてきたせいで、
ナショナリズムや国家主義と聞いた途端に多くの人が眉をひそめる始末になっているわけだ。
・すでにみたようにソサイアティとはソキウス(仲間)の集まりのことであり、
また近代にあっては社会による弱者への保護をはじめとして
「社会的なるもの」が肥大化していることは否めない。その肥大化がこれ以上は無理だとして
「弱者切り捨て」が行われる場合も生じている。
しかし重要なのは国民社会を「公共の規範」へと繋ぎ止めることなのだ。
そしてその規範はけっして社会における多数派の世論から出てくるものではない。
・僕が他書でこれまで何度も引用してきた科白であるが「人生の最大限綱領は一人の良い女、
一人の良い友人、一個の良い思い出、一冊の良い書物」(G・K・チェスタトン)だと
最初から思い定めておくことである。
金銭も名声も地位も権力もそれなりに重要な代物なのではあろうが、
自分はいずれ死ぬ身だという絶対の真理を押さえておけば、そんなものはまったくもって
ほどほどにすますと構えるのが知識人の生き方であり死に方でなければならない。
そういう生死の形にまで問題を追い込んでいけば、
マスにとて心の深部で共鳴するものが少なからずいると見込んでよいのではないか。
いや、そう見込むほかに何の拠り所をもたないのが知識人という者なのである。
・日常の惰性態とみえる生活のなかで日々発見できる不動の私徳、
その主たる表現者がオンナではないのか、かつては庶民という人々ではなかったのか。
女という結局は分かり切らぬ者たちの日常の挙措を通じて、
男たるものは好むと好まざるとにかかわらず、女と(女の産んだ)子供を守るために生き、
そして守り切れなくなったら死ぬ、
それ以外にはどんな公事における公徳(廉恥・公平・正中・勇強)に沿った生き死にも不可能なのだとわかる。
それに応じて、国家の代表者たちも庶民たる国民のために生死するほかに生き様も死に様もないのだ。
・「生とは(死に方のことを含めて)選択の休止することなき過程のことであり、
選択には、変革を選好するにせよしないにせよ、公聴の規範が必要であり、
その規範は無常なる歴史の流れの河床にあって恒常を保たんとする人々の然り気なくはあるものの
間断なき私徳での努力によって保守される」と、本当ならばいう必要のないことを、
それどころか今ではいっても詮ないことを、言い残しておくのが老いて死にゆく者の義務だと思うのである。
う~む‥‥。(絶句)
言葉の迫力に圧倒されて、書くべき言葉がありません。というか、その「知識」を持ち合わせていません‥‥。
著者は、「日本人のほとんどが会社員の振る舞いよろしく、
目先の利害に反応して右するか左するか喧しく蝶々していることをさしてJAP.COM」と呼び、
「大東亜戦争の敗北まではかろうじて残っていた日本民族の廉恥心(恥を知ること)・公平心・
正中(的を射ていること)・勇強心がほとんど消滅してしまっている現状」を
JAP.COMの「衰滅」と形容されていました。
「マス」の一人である私は、せめて「私徳の努力による保守」を心掛けて、
日本と日本人の「衰滅」の行く末を、この目で見届けたいと思います。
- 作者: 西部邁
- 出版社/メーカー: 平凡社
- 発売日: 2018/02/27
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