本書の裏表紙には、次のようなことが書かれていました。
『‥‥ひとりの人間の少年期から壮年期までの成長における感受性の劇を、
六つの物語に謳いあげた青春性小説。明日は檜(ひのき)になろうと念願しながら、
永遠に檜になれないという悲しい説話を背負った〝あすなろ〟の木に託して、
著者自身の《詩と真実》を描く。』
この文章に登場する《詩と真実》は、亀井勝一郎の「解説」によると、
ゲーテの「自伝」に附された題名とのことですが、亀井はさらに
「樹木は伸びても天まで達しないことになっている」というゲーテの言葉を引用しながら、
次のようななことを述べていました。
『‥‥「あすなろ」の悲しみは、永遠に檜になれない悲しみには違いないが、
「天に達しない」人間の限界への認知をひそかにふくみながら、しかも「天に達しよう」ともがく
青春の憧憬に宿る美しい悲しみと考えてもよかろう。‥‥』
実のところの本書は、私が若い頃から一度は読んでみたい本の一冊でした。
この年歳になってようやくその思いを実現させたのですが、
これまでその思いを温めてきて、逆によかったのではないかと思っています。
「あぁ、そういえば確かに、私にも「明日はあすなろになろう」と奮闘努力した時期もあったなぁ~」‥。
本書を読みながら我が人生を振り返り、何度もそうした気持ちを抱きました。
「美しさと優しさと切なさと哀しさ」が混在同居する、そんな不思議な読後感を抱かせる一冊でした‥‥。