遅ればせながら、『錦繍(きんしゅう)』(宮本輝著:新潮文庫)を読了しました。
夫の不倫(無理心中事件)で離婚した元夫婦が、10年の歳月を経て、
紅葉に染まる蔵王で偶然再会したことから物語は始まり、そこから二人の往復書簡が続いて行きます。
主人公の女性からは8通、もう一方の男性から6通、合わせて14通の手紙のやり取りです。
愛と人生の再生の物語である本書を読み終えた後、どういうわけか、
「されどわれらが日々」(柴田翔著)における節子から文夫宛ての手紙と、
竹内まりやさんの名曲「駅」を連想してしまいました。
ところで本書は、日経新聞電子版「日経BOOKプラス」で、
名門進学校の国語の先生が推薦されていたのを読んで、購読したものです。
そこでその先生は、次のようなことを述べられていました。
『‥‥SNS(交流サイト)はおろかメールさえなかったあの頃。
草稿を練ってから便箋に向かい、たゆたう心をしたためる。
来るか来ないか分からない返事を何日も何日も待つ。
レスポンスは早いほど良し、というコミュニケーションをしている今の子たちは、
これをどう捉えるんだろう。
直情的に返すばかりでなく、ちょっと寝かせて考えてみることもやってみてほしいな。‥‥』
なるほど、「たゆたう心をしたためる」ですか‥。
本書の「解説」においても、「日常生活における手紙の影が一般に薄くなればなるほど、
逆に、生き残っている手紙は濃厚なドラマの影を帯びざるを得ぬことになる。」とか、
「手紙とは精神が伸びやかに活動することの出来るきわめて貴重な場所の一つであるに違いない。」、
このように書かれていました。
本書を読んで、「手紙」という通信手段が持つ、「得難い価値」を再認識した次第です‥‥。