5月22日(木)の朝日新聞オピニオン欄に掲載された
岩井克人・東京大名誉教授へのインタビュー記事がとても勉強になりました。
「米国の大いなる誤り」というタイトルの記事の中で、印象に残った記述をいくつか抜き出してみました。
・今こそ覇権国の地位から降り、主導してきた自由貿易や安全保障体制をご破算にする。
各国と個別に有利な取引をすることで「米国を再び偉大に」できるはずだーー。
それが米国第一主義ですが、大いなる誤りです。なぜなら、米国は覇権国ではなく「基軸国」だからです。
・基軸国とは、「媒介」として自分以外の国同士を掬び付ける役割を負った国のことです。
基軸や媒介といった概念は、通貨で考えると分かりやすいでしょう。
・世界経済において交換の媒介になるのが基軸通貨なのです。
重要なのは、ドルの基軸性は、世界中の人がそれが基軸だと考えているから、
という一種の産物に過ぎないという点です。
・基軸国でなくなるということは、特権的地位がもたらした様々な利益を失うということ。
米政権内部もようやく自分たちの立場に気付いた節があります。
・米国が80年代以降、率先して進めてきた「グローバル化」は、市場万能主義と株主主権論が特徴ですが、
どちらも完全な誤りです。
市場経済は、自己循環論法の産物である貨幣に基づくので、本質的に不安定さを内包している。
機能させるためには、政府や中央銀行という公共的存在の介入が絶対に必要です。
・日本は失われた30年の間、米国型資本主義を唯一のグローバルスタンダードと見なし、
周回遅れでそれを追いました。その誤りは明らか。かじを切り直す時です。
穏健な議院内閣制や代表制のあり方を含めて、
日本は、既に「近代」が西洋固有の原理でないことを証明しています。
「近代」の多様性を示すことで、その普遍性を世界に広げること。
それこそが、大げさに言えば日本の世界史的使命なのです。
また、岩井先生は、いま中国やロシア、北朝鮮など強権国家群が主張していることは、
かつて日本がたどった道(日米開戦後に唱えられた「近代の超克」論)とパラレルだとし、
日本の役割は、どれほど凡庸であっても、民主主義、法の支配、思想の自由、人権保障といった
「近代」の普遍的価値を守り続けることだ、とおっしゃっていました。
米国は覇権国ではなく「基軸国」だというお話しや、「日本の歴史的使命」という崇高なお話しなど、
岩井先生がご専門の「貨幣」の観点からも学ぶことができた、価値ある記事でした‥‥。