吉村さんの本を読んだのは、『漂流』、『三陸海岸大津波』に次いで、
この本が3冊目となりました。
筆者の「あとがき」と文芸評論家・磯田光一さんの「解説」から
次の二つの文章を、特に印象に残った個所として書き残しておきたいと思います。
『私は、戦争を解明するには、戦時中に人間たちが示した
エネルギーを大胆に直視することからはじめるべきだという考えを抱いていた。
そして、それらのエネルギーが大量の人命と物を浪費したことに、
戦争というものの本質であるように思っていた。
戦争は、一部のものがたしかに煽動してひき起こしたものかも知れないが、
戦争を根強く持続させたのは、やはり無数の人間たちであったに違いない。
あれほど厖大な人命と物を消費した巨大なエネルギーが、
終戦後言われているような極く一部のものだけで到底維持できるものではない。』
『〝武蔵〟が完成後に就航し、やがて実戦に参加するに至っても、
神話と現実との断層を見る作者の目は、いささかも変わっていない。
それはまぎれもなく、〝旗艦〟であり帝国海軍の象徴である。
しかしいかなる大きな象徴性をもとうと、またいかに完全な装備をもとうと、
軍艦が鉄片の集合物であることに変わりはない。
その巨艦に賭けられたエネルギーの大きさは、
必ずしも艦の現実的な戦闘力とは一致しないのである。
動機と結果の不一致、それはたんに戦艦だけにかかわるものであろうか。
長い努力の結実が、一瞬にして無に帰するのは、
人生そのものの荷なっている宿命の一つでさえあるのではないか。』
「戦争の本質」というものについて、深く考えさせられる一冊となりました。
たまたまというか、今日の午後9時から、
NHKで『ドラマ戦艦武蔵』が放送されるようです。
この本をそばに置きながら是非観たいと思います。