『人口と日本経済~長寿、イノベーション、経済成長』
経済成長は必要かどうかについて、また、その恩恵について、
吉川先生が引用されていた、
唐の大儒韓愈が書き残したという「原道」という文章が、強く印象に残りました。
『「古(いにしえ)の時、人の害多し」。
太古人間を取り巻く環境は厳しかった。
それを目に見える形で改善した人こそが「聖人」である。
「寒くして然して后(のち)にこれが衣を為(つく)り、
飢えて然して后にこれが職を為る」。
さらに「医薬を為って、以て夭死を済(すく)う」。』
う~む、なるほど……。とても説得力のある文章です。
吉川先生は、地球環境の持続可能性が問われる今、
経済成長を自己目的化する「成長至上主義」を唱える人はもはやいないが、
経済成長の果実を忘れて「反成長」を安易に説く考え方は危険ですらある、
と述べられています。
そして、吉川先生は、経済成長の必要性について、
次のように明解に述べられていました。
『戦後復興とそれに続く高度経済成長が終焉し、1970年代に入ると、
がむしゃらな成長至上主義は姿を消した。
これは先進国においては歴史の必然である。
しかしそのことと、文字どおりのゼロ成長論は別だ。
あたかも人にとってじっと静止しているよりも、
それぞれ自分に合ったペースで歩行している方が心地よいのと同じように、
成熟した先進国においても、それぞれの経済にあった経済成長のほうが、
ゼロ成長よりはるかに自然だ。ゼロ成長の下では現役世代
とりわけ若い人たちの雇用は劣化していかざるをえない。さ
そうした観点からもやはり経済成長は必要だ。これが私の考えである。』
さらに、吉川先生によると、シュンペーターは、
「イノベーションの担い手にとっては、金銭的なリターンもさることながら、
何よりも未来に向けた自らのビジョンの実現こそが本質的だ」と言ったそうです。
私は、自分自身については、どちらかというとペシミズムの持ち主ですが、
日本経済の将来については、オプティミズムな考えの持ち主です。
「プロダクト・イノベーション」なるものが、
課題先進国の日本において、いつかどこかで必ず起きると信じています……。

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