『正義とはなにか~現代政治哲学の6つの視点』(神島裕子著:中公新書)を読了しました。
本書にどんなことが書かれていたのかを後で思い出すために、私が特に大切だと思った文章を3つ、
次のとおり抜き出してみました。
・不安な社会で虚無主義に陥った〈私〉が生き延びるためには、
「勝ち組」になって市井の人びとの日常と無縁の生活を送るか、
リスクを最小限に抑えた「為さない・持たない」生活を送るかではないでしょうか。
あるいは人生がうまくいかない理由を他者の存在に見出すことで、
辛うじて自己肯定感を保つことになるのかもしれません。
すると社会は分断され、憎悪と不寛容がはびこり、民主主義はますます危うくなります。
こうした事態に取り組むための一手段として、正義の理論があります。
〈君と私で合意できる正義は何かを考えよう〉という、民主的な哲学の営みです。(「まえがき」)
・これまで本書では、リベラリズム、リバタリアニズム、コミュニタリアニズム、フェミニズム、
コスモポリタニズム、そしてナショナリズムという現代正義論の六つの立場が
競合している様子を描いてきました。皆さんはどれに最も親しみを覚えたでしょうか。
ロールズの「正義論」からスタートした現代正義論は、
個人の不可侵なものとは何であるかを模索すると同時に、社会的協同の産物である自由、権利、財/資源、
そして義務の分配もテーマとしてきました。
六つの立場は、何を誰にどう分配するのが正しいのかに関して、切磋琢磨しているのです。(「終章」)
・人間がこの世界で自分と他者のために希望を持ち続けるためには、多くの哲人市民の支えが必要です。
現代社会において、正義は哲学と民主主義の協同の産物ですが、
その公共的使用の方法を学校で教えてくれないとしたら、自分たちで学ぶしかありません。
現代正義論はそのためのツールであると言えます。(「終章」)
著者は「まえがき」で、『たとえ傲慢だと言われようとしても、
正しい社会のあり方は論じられなければならず、また論じ続けなければなりません。』と述べられていました。
社会に生きる哲学者・「哲人市民」になることは容易ではなさそうですが、
現代社会の一員として生きていくなかで、不条理や不正義に遭遇したときに、
「正義とは何か」を考える姿勢を持ち続けることの大切さを、本書から学べたような気がします。
- 作者: 神島裕子
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2018/09/19
- メディア: 新書
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