NHKテレビテキスト、100分de名著の『大衆の反逆~オルテガ』を読了しました。
テキストの執筆者は、評論家で東京工業大学教授の中島岳志さんです。
このテキストで一番印象に残ったのは、「生きている死者」という言葉でした。
オルテガは、リベラリズムに基づいたデモクラシーを徹底して擁護した人物、
その実現のために重要視したのが「生きている死者」の存在とのことで、
中島さんの次のような解説がありました。
・人間は二度死ぬということ。つまり、単に心肺停止によって死ぬだけではなく、
忘却によって真の死を迎える。
・ヨーロッパ社会の秩序を支えてきたのは「生きている死者」とともに歩むという感覚だった。
死者は身体が失われたあとも私たちのそばにいて、この世の中を支えてくれていると考えられていた。
・そうした感覚が共有されていれば、社会で多数派を占めているかといって、
その人たちが勝手に何でも決めたり、変えたりしていいということにはならない。
・過去の英知や失敗の蓄積の上に現在があるのだから、いま生きている人間だけによって、
既存のとり決めを何でもかんでも変えていいわけがない。
・いくら多数決が民主制の基本とはいえ、そうした「限界」はもっていなくてはならない。
う~む、なるほど‥‥。中島さんが、日本の多くの家にある「遺影の存在」でも指摘されているように、
「日々、死者からのまなざしを受けること」は、重要な意味があるのですね‥‥。
でも、まさか政治学の世界で、このような考え方がでてくるとは思いませんでした。
このほか、テキストでは、
「多くの無名の人たちが積み上げた経験値に学びながら、漸進的な改革をしていこう~「永遠の微調整」~」
というのが「保守の発想」だという、忘れ難い記述のほか、
スペインやフランスの詩人の次のような言葉が、印象深く紹介されていました。
・「過ぎしむかしは すべていまにまされり」(スペインの詩人ホルケ・マンリーケ)
・「湖に浮かべたボートを漕ぐように、人は後ろ向きに未来へ入っていく」
(フランスの詩人ポール・ヴァレリー)
「大衆の本質」と「民主主義の限界」について、とても学ぶことの多い一冊でした。
オルテガ『大衆の反逆』 2019年2月 (100分 de 名著)
- 作者: 中島岳志
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2019/01/25
- メディア: ムック
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