しんちゃんの老いじたく日記

昭和30年生まれ。愛媛県伊予郡松前町出身の元地方公務員です。

全三冊を読み終える

報道によると、東京都が今日4日に確認した、新型コロナウイルスの感染者は131人で、

3日連続で100人を超えたそうです。

愛媛県ではしばらく感染者の確認は見られませんが、全国的に感染拡大傾向にあり、

「正直言って嫌な気持ち」を抱きながら、不安な日々を過ごしています‥‥。


さて、話は変わりますが、

宮部みゆき責任編集 松本清張傑作短篇コレクション㊦』(文春文庫)を読了しました。

下巻に収められた作品の中でも、強く印象に残ったのは「菊枕」という作品で、

第三回松本清張賞受賞作家・森福都さんの、次のような解説が掲載されていました。


『美貌と才気に恵まれた主人公の「ぬい」には、奔放華麗な俳句と勝気な性格で知られた

 杉田久女の生涯が投影されている。平凡な田舎教師の妻に納まることができなかったぬいは、

 才能を開花させて中央俳壇で認められたものの、貧しさゆえの焦燥、俳壇での軋轢、

 過剰な自負に囚われてもがき、やがて狂気の淵へと落ちてゆく。』


そして、作品に登場する、ぬいの師・宮萩栴堂は、

愛媛松山が生んだ俳人高浜虚子がモデルであることを知りました。

なお、先ほどの森福都さんは、「菊枕」の脚本を書くとしたら、ぬいの夫である三岡圭助を

「終始無言で凡人ならではの悲しい善良さを備えた男として描いてみたい。」と述べられていました。


『ぬいにとっては圭助は気力のない無能者である。

 彼への軽蔑は二十年来のものだが、時には限りない憎悪を感じて、

 訳の分からないことに突っかかって罵った。』

作品中のこの記述に、勝気な妻から同じように無能者扱いされる、

自分自身に重ね合わせるところがありました。


それでも、作品の最後で、精神病院に入ったぬいが、朝顔の花を摘んで

「あなたに菊枕を作っておきました」と布の嚢を差し出す場面と、

『圭助は泪が出た。狂ってはじめて自分の胸にかえったのかと思った。』という感動的な文章を読んで、

「夫婦として連れ添う意味」を、ほんの少しですが理解できたような気がしました。


シリーズ全三冊を読み終えて、改めて松本清張作品の魅力を再認識した次第です。