日本経済研究所のHPに掲載された、
田中秀明・明治大学教授執筆による「歴史に学ばない骨太の方針」というタイトルの
次のような内容の論評を興味深く読みました。
・過去20年間、歴代内閣は「e-Japan戦略」のような電子政府推進の看板を掲げてきた。
莫大な予算を投じてきたものの、現在でも住民票さえ自宅で取得できない。
給付に手間取るという失敗を受け、今年の『骨太の方針』では、
内閣官房に新しい専門部署を設置し、行政のデジタル化を強力に推進するとしている。
しかし、これまで出来なかったことがなぜ急に出来るようになるというのか。
・筆者は、電子政府化、行政のデジタル化が進まない最大の理由は、
「デジタル化の何が問題なのか」「何が障害になっているのか」などの分析がないことにあると考えている。
今年の『骨太の方針』をみても、「今般の感染症対応に伴う支援策の実施を通じて、
受給申請手続・支給作業の一部で遅れや混乱が生じるなど、
デジタル化・オンライン化が特に行政分野で遅れていることが明らかになった」という記述はあるが、
何が問題だったのかという分析はない。
今年の『骨太の方針』では、新型コロナ感染症拡大で非正規雇用やフリーランスは
厳しい生活・事業を強いられ、格差拡大をもたらすことにもつながると指摘しているが、
「適正な拡大を図るため、保護ルールの整備を行う」としか述べていない。
これは契約ルールの整備であり、セーフティネットの拡充ではない。
・安倍政権が掲げる「働き方革命」「人生100年時代」などの方向性に異論はない。
今年の『骨太の方針』でも、
「誰一人取り残されることなく生きがいを感じることのできる包摂的な社会を目指す」
としているが、社会保障の問題に本気で取り組んでいるようには見えない。
あくまでも「やっている感」の演出にとどまる。
日本の社会保障の問題は、従来の枠組みではカバーされていない人たちが増えていることであり、
この人たちを社会保障の対象にしていくことが課題だろう。
・ここで財政再建の経緯を簡単に整理しておく。
歴代政権が掲げてきた財政再建目標はことごとく失敗している。
2006年に導入された「2013年度におけるプライマリーバランス黒字化」(小泉純一郎政権)、
2010年に導入された「2020年度におけるプライマリーバランス黒字化」(菅直人政権)は、
いずれも目標を達成できなかった。
民主党政権の目標はその後、第2次安倍晋三政権に引き継がれた。
・安倍晋三政権のもと、「2020年度におけるプライマリーバランス黒字化」は、
2017年に棚上げされ、目標時期が2020年度から2025年度に後ろ倒しになったが、
今年の『骨太の方針』では、プライマリーバランスを黒字化するという目標はなくなった。
これまで財政再建が失敗した理由はいずれも景気後退である。
景気は常に循環し、外的ショックで景気後退する危険性があるにもかかわらず、
景気変動を考慮した財政運営や財政再建ができていない。日本は過去の歴史に学んでいないのである。
う~む‥‥。
「これまで出来なかったことがなぜ急に出来るようになるというのか」など、なかなか手厳しいご指摘です。
また、田中教授は、この論評の最後に、
「政府は全知全能ではないので、失敗することもある。
重要なことは、結果や失敗を真摯に分析し、次に生かすことである。」と述べられていました。
トレードオフの関係にある感染拡大の防止と経済・社会活動の維持という困難な課題を、
私たちはどのように解決しようとしたのか、
その成功事例も失敗事例も、正しく後世に伝えていくことが大切なのですね‥‥。