今月14日の日経新聞「経済教室」は「人事の経済学」の第3回目。
執筆者は服部康宏・横浜国立大学准教授で、
論考のタイトルは『企業の「本音」が人材つかむ』でしたが、
内容はとても示唆に富むものでした。
まず驚いたのは、米国では、
「募集」「選抜」「新人教育」といった企業の採用活動は、
経営学の重要な研究対象になっていて、
「採用学」とでも呼ぶべき分野として確立しており、
日本企業の参考になる分析や実証研究も多いということです。
そして、採用活動とは、求職者と企業の間で、
「期待」「能力」「フィーリング」という3つのマッチングを行う過程であり、
日本企業の場合では、特に新規学卒者の採用過程を見るとき、
募集段階で企業と求職者間の期待のマッチングが十分になされず、
様々な期待が曖昧なままにさていることが問題点として挙げられるとのことでした。
どうやらその背景には、採用担当者の間で、
多くの求職者を集めるほど、優秀な人が含まれる確率は高くなるという
「大規模母集団神話」が信じられている現実があるみたいです。
また、論考のなかで興味深かったのは、次の記述でした。
『「優秀な人材を採用できなかった」企業群は、
求職者に対して自社に関する魅力的な情報を提供し、
多くの求職者をエントリーさせていた。
これに対し「優秀な人材を十分に採用できた」企業群は、
募集広告や企業説明会でネガティブな(あるいは「本音」の)情報も提供しており、
企業との期待のマッチングを求職者自身に判断させていた。
後者の場合、当然エントリー数は減るが、
最終的には十分に優秀な社員を採用できていた。
先述のように、こうした企業は採用コストも相対的に低く、
採用担当者の時間や労力といった貴重なリソース(資源)を
自社を本気で志望してきた求職者のために費やすことができた可能性が高い。
日本企業が軽視しがちだった「期待のマッチング」の重要性を示す結果といえる。』
なるほど……。
「不都合な情報の発信を避けると非効率になる」のは、
何も採用の世界だけに限ったことではないような気がします。