今月12日の日経新聞「経済教室」は、「人事の経済学」の第1回目、
執筆者は石田潤一郎・大阪大学教授で、
論考のタイトルは『革新阻む新卒一括採用』でした。
新卒一括採用という日本特有の雇用慣行が
社会構造や規範に与える影響について論点を整理した論考で、大変勉強になりました。
石田教授は、
フロンティア型経済の持続的成長に不可欠なのは才気あふれる企業家であるけれど、
新卒採用は、この人材供給の面で大きな足かせになっている可能性が高いとしたうえで、
次のように述べられています。
『大ざっぱにいうと日本社会は
「成功する」ことより「失敗しない」ことに価値を置く減点主義社会である。
決められたレールを外れないように注意深く生きることに対するリターンが高い一方、
レールを外れて新しいことに挑戦するコストが相対的に高い。
こうした構造は、経済が発展途上にあり、
均質で勤勉な労働者が多数必要な経済では極めて有効だった。
しかし現在では、皆がただ失敗しないようにリスクを避けるだけでは、
新たな価値や市場を創造することはできない。
豊かさは人間にとっての普遍的な価値であり、
ある段階までは経済発展が全てに優先する目標である。
しかし、ある程度の豊かさを達成した社会は、
多様性を許容する方向へシフトしなければならない。
年齢を基準にして皆で一斉に何かをしないといけないような前近代的な規範からは
そろそろ卒業すべきだろう。』
私は、「新卒一括採用」という就職活動に苦労した一人です。
これといって取り柄のない私は、自己PRするような材料もなく、
自分がどのような職業に向いているのか、何をやりたいのかという信念も無いなかで、
周りの人たちが次々と内定をもらっていくのを見て、
言い知れぬ焦りと不安を覚えていました。
石田教授の指摘される、「前近代的な規範を卒業」することは困難を伴うと思いますが、
まずは、若者が一度の失敗でマイナスの評価を受けることなく、
逆に、何度でもチャレンジする精神と行動を是とするような、
そんな「加点主義社会」を作らないといけないと強く感じた次第です。