戦後70年という節目の年に文庫版として刊行された
『日本の愛国心~序説的考察』を再読しました。
藤本龍児・帝京大学准教授が、
佐伯先生の「保守思想」を次のとおりに解説されていました。
とても秀逸な内容だったので、まず最初に紹介したいと思います。
藤本准教授は、佐伯先生のいう「保守」とは、
基本的には、ある種の精神的な態度のことであり、
思想もそこから出てくるとして、次の三つの問題意識と批判精神を列挙されています。
・一つに保守は、理性を過信しない。
理性的に新しい社会構造を設計できるとは考えない。
新しい理念を抱いて不確かな未来に期待することを慎み、
時代の要請と称して急激に改革を進めることを改める。
・二つに保守は、歴史に根ざす。
人間の理性を過信しない代わりに、多くの人々に吟味されてきた知恵や、
長い時間に耐えてきた秩序を重んじる。
社会を安定させるために、歴史のなかで培われた伝統や権威を尊重する。
理想のなかに予測される可能性よりも、
現実のなかに受け継がれた実効性を重んじる。
・三つに保守は、身近なものから出発する。
家族や友人、地域社会、といった具体的な関わりや共感がもてるものを
「生の基盤」にし、そこで育まれてきた文化を拠り所とする。
それらを基盤としない個人の自由から出発し、
制度やシステムを構築することには懐疑的になる。
う~む、何度読んでも素晴らしい…。
「保守思想」というものの原点を簡潔明瞭に説明されています。
さて、肝心の本書の内容ですが、
単行本に続いての再読にも関わらず、読んだ後は付箋だらけになっていました。
そのなかでも特に心に刻まれたのは、
ある決定的な場面で共通の感受性を表したとして、
次のように説明されている文章です。
『それは、日本の「伝統」や「歴史」の中に、
「かなしみ」「無私」「滅び行くものへの愛着」と表現されるような
感覚の痕跡をかぎつけていることである。
勝者の凱旋などではなく、敗者の無念さに琴線を掻き立てられ、
晴れ晴れした戦いの正義などではなく、
どこか鬱積した情念のもつささやかな義へ関心を向け、
戦いに正邪や理由を読み取るというよりも、そこに運命の巨大な力を感じ、
そして、最終的には、その運命に翻弄されて敗残していく自己を、
そのままに無私の心で受け入れる、というような精神である。
ここから、特定の対象や原因をもたない透明な
「かなしみ」のような情緒が深く出来(しゅったい)する。
この「かなしみ」や「滅び」や「無私」が奏でる和音の上に
「日本の愛国心」はさまざまな旋律を奏でる。
いずれにせよ、この和音が常にわれわれの精神の底流を流れている。
この静かな和音の上に「日本の愛国心」というものが奏されるのだ。』
佐伯先生は、『侵略戦争断罪の左翼が批判する愛国心でもなければ、
その底にある「もうひとつの愛国心」』とも述べられています。
「保守思想」のバイブルとして、是非手元にお置いてほしい一冊です。