しんちゃんの老いじたく日記

昭和30年生まれ。愛媛県伊予郡松前町出身の元地方公務員です。

優れたインテリジェンス・ストーリー

『宰相のインテリジェンス~9.11から3.11へ』

(手嶋龍一著:新潮文庫)を読了しました。

 

大変面白くて、しかも勉強になる本でした。

本書では、インテリジェンスだけでなく、

リーダーシップや外交・安全保障に関する「名言」や「箴言」が数多くありました。

以下は、特に印象に残った記述です。

 

まずは、インテリジェンスに関して

・インテリジェンスとは、単なる極秘情報ではない。

 国家指導者の下す決断の最後の拠り所となる

 選り抜かれた情報エッセンスなのである。

 

・インテリジェンスは日本語で一般に「情報」と訳される。

 だが英語の五感はもっと複雑なニュアンスに富んでいる。

 河原に転がる石ころはどれも同じに見える。

 だが、それらをひとつひとつ丹念に選り分け、

 微妙な色や形に秘められた意味を周到に分析していくと、

 情報の全体像が次第に浮かび上がってくる。

 醇化された情報のひと滴こそインテリジェンスなのである。

 

・今の日本には奇妙な幻想がひとり歩きを始めている。

 政治指導者は確かな情報さえ手にすれば、誤りなき判断を下すことができるーと。

 インテリジェンス至上主義といもいうべき面妖な期待が自己増殖しつつある。

 

次に、リーダーシップに関して

ホワイトハウスは世界に並ぶものなき権力の館である。

 志高き者も、野望を滾らせた者も、政治の権利をむさぼろうとする者も、

 すべて呑み込む巨大な器なのだ。

 それゆえアメリカ大統領に何より求められる資質は、人物を見抜く力なのである。

 自らの政権で誰に舵取りを委ねるべきか、

 誰を権力に近づけてはならないのか、誤りなき判断を下さなければならないのだ。

 国家の命運を握るリーダーは、

 真に公人の名に値する者を見分ける眼力を備えているべきなのだ。

 

・些細な実務や小さな決定に手を出してはならない。

 国家の命運を左右する局面ではおのが決断に持てる全てを傾けて、

 しかる後に結果責任を淡々と担ってみせるーー

 危機の指導者の取るべき鉄則から最も遠くにいたのが、

 我がニッポンの指導者だった。

 

最後に、外交・安全保障に関して

・安全保障上の同盟とは、究極の手段として軍事力の発動を前提にして

 初めて十分な抑止力として働く。

 アメリカの力の権益を冒せば、圧倒的な反撃を受けてしまうー

 相手がこう考えた時に、力の抑止は機能する。

 

・同盟関係は沈黙の臓器(肝臓のこと)に似ている。

 両国の信頼の絆が損なわれる事態が静かに進行していても、兆候は容易に現れない。

 そのため同盟の奥底に広がる病弊をつい見過ごしてしまう。

 国家の安全保障を担う者は、よほど感覚を研ぎ澄ましていなければ、

 忍び寄る危機を察知できない。

 

本書は「ノンフィクション」でありながら、

なんとなく「小説」を読んでいるようにも感じましたが、

その理由が、最後の「著者ノート」に書かれていた次の箇所を読んで、

ようやく理解できました。

『真のインテリジェンスは、深い思索のなかで醸成され、

 しかも情報源の秘匿を至高の責務とする。

 このため優れたインテリジェンス・ストーリーは

 物語の形式をとることが多いからだ。』

 

9.11と3.11。米国と日本を比較して書かれた本書ですが、

『情報とは命じて集まるものではない。

 リーダーの力量で磁石のように吸い寄せるものだ。』との記述を読んで、

日本という国に欠けていたものの「本質」が、見えてきたように思います。

 

宰相のインテリジェンス: 9・11から3・11へ (新潮文庫)

宰相のインテリジェンス: 9・11から3・11へ (新潮文庫)