『組織の不条理~日本軍の失敗に学ぶ』(菊澤研宗著:中公文庫)を読了しました。
まず、著者は、本書のねらいをプロローグにおいて、次のように述べられています。
『本書は、このような現代に蔓延する組織の不条理を解明するために、戦争の世紀と呼ばれる20世紀末に、
改めて大東亜戦争で繰り広げられた日本軍の不条理な組織行動を問い直し、
その不条理の背後に人間の合理性があることを明らかにする。
しかも、このような不条理な現象は決して戦争に固有の過去の現象ではなく、
現代組織にも起こることを明らかにする。さらに、将来、このような不条理な組織行動に陥らないように、
不完全なわれわれ人間が何をなしうるのかを明らかにする。これが本書のねらいである。』
ちなみに、本書で多用されている不条理とは、「人間が合理的に失敗するということ」、
あるいは「人間組織が合理的に失敗すること」の意味であり、
どんな人間も完全合理的でなく、限定合理的だとみなす「新制度派経済学アプローチ」を用いて、
旧日本軍の戦闘行動、組織行動を理論的に分析しようとするものです。
具体的には、不条理に陥った事例として、「ガダルカナル戦」には「取引コスト理論」、
「インパール作戦」には「エージェンシー理論」、不条理を回避した事例として、
「ジャワ軍政」には「所有権理論」、「硫黄島選」「沖縄戦」には「組織形態における取引コスト理論」
を用いて著者は分析されています。
そして、こうした組織の不条理を超えるために、著者は次のような点を指摘されていました。
・われわれ人間は限定合理的であり、常に誤りうることを自覚し、絶えず批判的であること、
そして誤りから学ぶという態度をとること。
・組織内部に絶えず非効率と不正が発生する可能性を認め、それを排除する制度をめぐって
絶えず批判的議論ができる「開かれた組織」を形成すること。
ふぅ~‥‥。本書の要点を書き残しておく作業も、頭の悪い私には一苦労です。
私の個人的な感想としては、難解で複雑な最新経済学理論で人間や人間組織を詳細に分析しても、
不条理を回避するための結論は、「誤りから学ぶ」「批判精神を持つ」といった、
とてもシンプルなものだということです。
人間は全知全能の神様でない以上、失敗と学習を繰り返すことが半ば宿命のような気がしてきました。
ちなみに、本書の「中公文庫版のためのあとがき」では、不条理の哲学的解決法による補完として、
「カントの哲学的解決法」、「ドラッカーの経営哲学的解決法」、「小林秀雄の大和心とマネジメント」
が紹介されていて、最後には訳が分からなくなった自分がいました‥‥。
まぁ、偉そうなことを長々と書いて申し訳ありませんでしたが、
本書が知的スリリングに満ちた力作であることは間違いないと思います。

- 作者: 菊澤研宗
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2017/03/22
- メディア: 文庫
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