しんちゃんの老いじたく日記

昭和30年生まれ。愛媛県伊予郡松前町出身の元地方公務員です。

名文を堪能する

『「編集手帳」の文章術』を読んだのをきっかけに、
同じ竹内政明さんが書いた「名文どろぼう」(文春新書)を読みました。

いきなり、「命あってのモノマネ」とか、
「四十にしてマドモアゼル」といった「ダジャレ」から始まるので、
「名文でもなんでもないのではないか?」と思うと、
この本の「本質」を見落とすことになります。

著者が定義する「名文」とは、次のようなものだそうです。

『ここでいう名文とは〈心をくすぐる言葉、文章〉のことで、
 世間一般の定義よりはいくらか幅が広いのかもしれない。
 笑い、涙、吐息……くすぐられた心から生まれるものはさまざまである。
 法律の条文もあれば、ダジャレもある。
 五歳児が口にした名分もあれば、たった三文字の名文もある。』

なるほどそういうことであれば、先ほどの「ダジャレ」も立派な名文です。
でも、やっぱり私は、涙から生まれる名分に惹かれます。
とりわけ、「母親と涙腺」の章の、
田端義男さんと乙武洋匡さんの母親に関する文章は、
「ぐっ」とくるものがありました。

そういえば、田端義男さんの文章は、
今年4月26日付の「編集手帳」でも、次のように紹介されていました。

『自伝を読み返して胸うたれるのは、
 貧乏と格闘しながら育ててくれた母親に寄せる思慕の情である。
 息子の成功を見届けて82歳で亡くなったとき、
 田端さんは棺の枕辺を思い出の紅ショウガで飾った。
 「どんな高価な花よりも…」と。』

「名文どろぼう」では、田端さんの名文の続きが読めます。
『どんなにきれいな花よりも、どんなに高価な花よりも、
 一枚一枚切り刻んだ紅ショウガの花こそが、
 何事にも代え難い、わたしのしてあげられる最後の親孝行でした。』

かように、この本のなかには、名文の数々が収められています。
その中でも、私の好きな名文を一つ選べと言われれば、
やはり、阿久悠さんの次の言葉でしょうか。

『夢は砕けて夢と知り
 愛は破れて愛と知り
 時は流れて時と知り
 友は別れて友と知り』
たった「32文字」に、「人生」が凝縮されているような気がします。

名文どろぼう (文春新書)

名文どろぼう (文春新書)