国立国会図書館発刊の立法調査資料「レファレンス」No.769に掲載された
『格差と経済成長の関係についてどう考えるか』というレポートが大変勉強になりました。
いつものように、この日記をメモ代わりにして、レポートの要点を書き残しておきます。
・「格差と経済成長の関係」をどのように考えるかという問題は、
「経済成長が格差に及ぼす影響」と「格差が経済成長に及ぼす影響」とに
分けて考える必要があること。
・「経済成長が格差に及ぼす影響」については、クズネッツの「逆U字型仮説」
(所得格差は経済成長の初期段階で拡大した後に縮小に向かう)や、
いわゆる「トリクルダウン理論」
(高所得者を優先的に潤わせれば、その恩恵はやがて低所得者にも滴り落ちる)
が知られていること。
・一方で、「格差が経済成長に及ぼす影響」を巡っては、
理論上、「格差の是正が経済成長を促進する」という見方と、
「格差の放置が経済成長を促進する」という見方が対立していること。
・前者が、格差是正を通じた資金の借入制約の緩和や、
社会の安定化に伴う経済活動の活発化等に着目するのに対して、
後者は、累進的な所得再配分政策が労働供給に歪みをもたらしたり、
マクロの貯蓄率を低下させることによるマイナス効果を重視していること。
・格差が経済成長に及ぼす影響が無視できなくなりつつあるなか、
今後は経済政策の観点からも、再分配のあり方が焦点になる公算が大きいこと。
・「事前の格差是正」(「機会の均等」の確保)に関する合意形成が
比較的容易である半面、「事後の格差是正」(「結果の平等」の確保)については、
公平性と効率性の二律背反という観点からの慎重論も根強いとみられること。
ちなみに、ビケティの著書「21世紀の資本」の内容は、
「トリクルダウン理論」に異を唱えたものとして解釈できるとのことであり、
ピケティによる指摘のポイントは、
「自由な市場経済メカニズムの下では資本(資産)の収益率が経済成長を上回るため、
時間の経過とともに、その所有者に向けた富の集中が進む」と考える点にあって、
経済成長を通じて格差が是正されるとの見方を真っ向から否定するものだそうです。
最近、ビケティの著書に関する解説本が数多く出版されていて、
どれが信頼できるのか素人には分からないところがありますが、
このレポートは、論点を把握・整理するうえで、とても役に立ったと思います。