『絶望名人カフカの人生論』(カフカ、頭木弘樹編訳:新潮文庫)を読了しました。
まず、編訳者である頭木さんは、「はじめに」で次のように述べられていました。
『カフカほど絶望できる人は、まずいないのではないかと思います。カフカは絶望の名人なのです。
誰よりも落ち込み、誰よりも弱音をはき、誰よりも前に進もうとしません。
しかし、だからこそ、私たちは彼の言葉に素直に耳を傾けることができます。
成功者が上からものを言っているのではないのです。』
そのカフカの言葉のなかでも、私が特に共感、感銘したのは、例えば次のような言葉でした。
・将来にむかって歩くことは、ぼくにはできません。
将来にむかってつまずくこと、これはできます。
いちばんうまくできるのは、倒れたままでいることです。
・人間の根本的な弱さは、勝利を手にできないことではなく、
せっかく手にした勝利を、活用しきれないことである。
・誰でも、ありのままの相手を愛することはできる。
しかし、ありのままの相手といっしょに生活することはできない。
・今日はひどい不眠の夜でした。何度も寝返りを打ちながら、やっと最後の二時間になって、
無理失理に眠りに入りましたが、夢はとても夢とは言えず、
眠りはなおさら眠りとは言えないありさまでした。
・ベットでじっと横になっていると、不安がこみあげてきて、とても寝ていられなくなる。
良心、果てしなく打ち続ける心臓、
死への恐怖、死に打ち勝ちたいという願いなどが、眠りを妨げる。
仕方なく、また起き上がる。こんなふうに寝たり起きたりをくり返し、
その間にとりとめのないことを考えるのだけが、ぼくの人生なのだ。
・生きることは、たえずわき道にそれていくことだ。
本当はどこに向かうはずだったのか、振り返ってみることさえ許されない。
・ぼくは人生に必要な能力を、なにひとつ備えておらず、
ただ人間的な弱みしか持っていない。
なぜ、このようなカフカの言葉と頭木さんの編訳に、共感、感銘するのか?
脚本家で小説家の山田太一さんが、
本書の「解説」のなかで次のように述べられているのを読んで、大いに納得した次第です。
『この世の成功者が語るポジティブな幸福論など、
大半は底の浅い自惚れか、単なる嘘か錯覚だったりすることが多く、
それに比べて不幸の世界の、なんと残酷で広大で奥深く切なくて
悲しくて美しくて味わい深いことだろうという感受性には共感してしまいます。』
また、頭木さんは、「人は絶望からも力を得ることができるし、
絶望によって何かを生み出すこともできる」、
「人を前に進めるのは、ポジテイブな力だけとは限りません。
ネガティブさからもまた力を引き出せることを、カフカは教えてくれます」
とおっしゃっていました。
生きるのが下手な私にとって、座右の書になりそうな一冊です。

- 作者: フランツカフカ,Franz Kafka,頭木弘樹
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2014/10/28
- メディア: 文庫
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