日経新聞「文化欄」では、小宮山宏・三菱総合研究所理事長(東大元総長)の
「私の履歴書」の連載が続いています。
その第19回目の今日は、あの有名な「3つのフレーズ」誕生の経緯が書かれていて、興味深く読みました。
『05年4月、28代目の東大総長に就任した。
初めての大仕事が、日本武道館である入学式での式辞である。
未来を担う若い人たちに何を語りかけるか、責任が重い。
爆発的に増えた知識、人間の活動に比べて小さくなった地球、そして長寿社会。
この3つが本質的な時代背景としてある。
大学院を含めると1年に10回ほど学生の前で話す機会があるのだが、
時どきのトピックに絡めて、3つの課題に言及するよう努めた。
東大生は思い切ったリーダーにならない、なれない、という世間の評価があり、気になっていた。
激しく変化する時代への対応を、自ら実践していく人こそがリーダーだろう。
先頭に立つ勇気を持て、と言いたかった。
総長就任の数カ月ほど前から、スピーチの内容を、
工学部の越光男教授、理学部の住明正教授、文学部の小林康夫教授と丸井浩教授らに相談した。
「本質を捉える知」と「先頭に立つ勇気」、この2つをキーフレーズにしたいと提案すると、
哲学者の小林さんは「それだけだと運動部だな」と皮肉る。確かに何かが足りない。
アガペーや惻隠(そくいん)の情のような言葉が提案されるが、慣用句では人の心に響かないだろう。
小林さんが「結局、他人を感じる力ってことなんだよな」とつぶやいた。
それでいこう。一度はそうなったが、後日、インド哲学の丸井さんがこう言った。
「赤の他人」「他人の空似」というように「他人」はよくない言葉だ。
他人ではなく他者でなければ、という。結局「他者を感じる力」にした。
総長時代の4年間、学生たちに3つのフレーズを繰り返し語った。
それはしかし、自らを励ます言葉でもあった。』
この3つのフレーズは、小宮山先生の名著「課題先進国日本」の「あとがき」でも書かれていて、
「学生生活で獲得すべき目標」、「私自身の目標」とともに、
これは「日本の目標」でもあると述べられています。
『‥‥なぜ世界をリードする必要があるのか。答えは感銘である。日本の子孫のためである。
そして同時にそれは、人類の未来を切り開くためでもある。』
簡単明瞭だけれど、これほど「気持ちを奮い立たせるフレーズ」は、他にはなかなか見当たりません。
- 作者:小宮山 宏
- 発売日: 2007/09/01
- メディア: 単行本