しんちゃんの老いじたく日記

昭和30年生まれ。愛媛県伊予郡松前町出身の元地方公務員です。

「よき敗者」による「よき時代」

町立図書館で借りてきた『危機の宰相』(沢木耕太郎著:魁星社)を読了しました。


本書で「解説」を書かれている御厨貴さんのお言葉をお借りすれば、

本書は、「池田勇人、田村敏雄、下村治」という人生航路の敗者三人が、「所得倍増」を目標として掲げ、

一人は表舞台の主役となり、今一人は裏方の事務の元締となり、

三人目はブレーンとして政策の振り付け役を務めることになるドラマを創り出す。

そして時に同床異夢でもある三人の微妙な言動を、骨太に描く。」という内容でした。


「テロルの決算」も傑作でしたが、この本も実に内容の濃いものがありました。

町立図書館から借りてきた本なので、自由に付箋をつけることができませんでしたが、

私が一番この本で印象に残ったのは、次のような記述でした。


『‥‥登坂(池田勇人の秘書だった登坂重次郎のこと)によれば、

 池田の口癖というのはこういうものだったという。

 「今日よりも明日、今月より来月、今年より来年」

 そこから浮き上がって来るのは、池田の中にある未来に対して希望を抱くことのできる

 「素朴さ」と「向日性」である。』

また、『「人類は進歩し、発展するものだ」というのがわたくしの根本思想の一つである。』という

田村敏雄さんの言葉も、忘れ難いものがありました。


この日記で幾度となく書いてきましたが、昭和30年生まれの私は、

「高度経済成長」「所得倍増」の恩恵を受けて育ったせいか、

いまだに「今日よりも明日は良くなる」という成長神話から完全に脱却できずにいます。


でも、この本を読んで、「所得倍増」が三人の「よき敗者(good loser)」の目標・理念だったことを知り、

やはり、私は、未来を信じることができたという、

幸せな幼・少年時代を生きてきたのだと、改めて思った次第です。