今月20日の朝日新聞一面コラム「折々のことば」は、福岡伸一さんの
「一度書かれた文字はそのまま動くことはありませんが、
その文字を受け取った人の心の中で文字は自由に運動を始めます。」という言葉で、
いつものように鷲田清一さんの、次のような解説がありました。
『文字は、それを読む人の心をかき混ぜ、ぶるぶる震わせ、
渦とでもいうか、なにか知れない動き(ムーブ)を引き起こす。
あるいは、心を温かくしたり、凍りつかせたりする。
物語はだから、だれでもその人なりに受け取り感じればいいのだと、生物学者は言う。
本紙連載中の「福岡伸一の新・ドリトル先生物語」第2回(4月1日朝刊)から。』
このコラムを読んで思い出しましたが、福岡ハカセの名言と言えば、
私にとっては、「「ルリボシカミキリの青~福岡ハカセができるまで」(文春文庫)の中の、
次の一節が強く印象に残っています。
『調べる。行ってみる。確かめる。また調べる。可能性を考える。実験してみる。
失われてしまったものに思いを馳せる。耳をすませる。目を凝らす。風に吹かれる。
そのひとつひとつが、君に世界の記述のしかたを教える。
私はたまたま虫好きが嵩じて生物学者になったけれど、
今、君が好きなことがそのまま職業に通じる必要は全くないんだ。
大切なのは、何かひとつ好きなことがあるということ、
そしてその好きなことがずっと好きであり続けることの旅程が、驚くほど豊かで、
君を一瞬たりともあきさせることがないということ。
そしてそれは静かに君を励ましつづける。最後の最後まで励ましつづける。』
はぃ、確かに、この一節を初めて知ったとき、私の心の中で、文字は自由に運動を始めました‥‥。