全国チェーンの古本屋で買った、『命売ります』(三島由紀夫著:ちくま文庫)を読了しました。
書棚にあった本書の題名にひかれ、なんとなく手が伸びて買ったのですが、
正直、三島由紀夫にこのようなエンタメ系の小説があったことは、まったく知りませんでした。
ご案内のとおり、本書は、終電車で大量に睡眠薬を飲んで自殺を試みた主人公が、その試みに失敗し、
今度は新聞の求職欄に「命売ります」という広告を出し、自分の命を売ろうとするけれども、
何度か危険な目に遭ううちに「死の恐怖」を覚えるようになる、という物語です。
「死の願望」から「死の恐怖」へ‥‥。
本書を読み終えると、なぜかしら小説「金閣寺」の末文が頭に浮かんできました。
『‥‥別のポケットの煙草が手に触れた。私は煙草を喫んだ。
一仕事を終えて一服している人がよくそう思うように、生きようと私は思った。』
そして、エンタメ系とは思いつつも、本書の中には次のような魅力的な文章もありました。
『‥‥あの美しい欅の梢が、夕空の仄青い色を、精妙無類に、
丁度夕空へ投げかけた投網のようにからめ取っているのは、そもそも何故だろう。
自然は何でこんなに無用に美しく、人間は何でこんなに無用に煩わしいのだろう。
しかし、それももうおしまいだ。自分の人生は終わりかけている、と思うと、
薄荷のように胸がスーッとした。‥‥』
魅力的な文体は、三島由紀夫の、他の著名な作品と同じではないかと感じた次第です‥‥。