しんちゃんの老いじたく日記

昭和30年生まれ。愛媛県伊予郡松前町出身の元地方公務員です。

メルトダウンの真意

メルトダウン〜ドキュメント福島第一原発事故」(大鹿靖明著:講談社文庫)を読了しました。

2011年3月の福島第一原発事故発生時から
2012年12月の衆院選挙における民主党の壊滅的敗北まで、
著者が195人の人物を取材して書きあげた、第一級のドキュメントです。

この本を読んでいると、
まるで「失敗の本質〜日本軍の組織論的研究」を読んでいるかのような錯覚に陥りました。
優秀な現場と頭でっかちで頼りない参謀本部
それはまるで、日本帝国陸軍の組織体質をみているかのようです。
日本と日本人の組織文化は、
今も昔も変わりがないことを知って、愕然とした次第です。

さて、この本の題名は「メルトダウン」なのですが、
この題名に込められた著者の意図が、
「初版あとがき」と「文庫版あとがき」を読んで、ようやく理解できました。
少々長くなりますが、この日記に残しておきます。

まずは、「初版あとがき」から…。
メルトダウンしていたのは、原発の炉心だけではないのだ。
 原因企業である東電の経営者たち。責任官庁である経産省の官僚たち。
 原子力安全委員会保安院原発専門家たち。
 原発爆発企業の東電に自己責任で2兆円も貸しながら、
 東電の経営が危うくなると自分たちの債権保全にだけは必死な愚かな銀行家たち。
 未曾有の国難にもかかわらず、正気の沙汰とは思えない政争に明け暮れた政治家たち。』

次に、「文庫版あとがき」から…。
『取材を通じて実感したのは、
 いかに、そのときどきの報道が浅薄だったかということである。
 それどころか真相とは大いに異なるデマゴークに類するものも少なからずあった。
 それは訂正されることなく人々の記憶に定着している。
 戦後最悪の惨事であるにもかかわらず、
 いくつかの例外を除けば、報道の質は決して満足できるものとはいえないだろう。
 しかも、能力の欠落と保身、責任転嫁、さらには志の喪失は、
 現場の記者たちよりもむしろ大手報道機関の幹部たちに顕著にあらわれている。
 メルトダウンしていたものに、大手報道機関も加えねばならない。
 それは残念ながら私の勤務先も例外でない。』

東電経営者や政治家などのほかに、
自分の勤務先までも含めて、勇敢に、そして大胆に批判する。
(おそらく著者自身も自己批判されているのだと思います。)
こうした冷静な正義感と熱い使命感が、
本書の価値を一段と高めていることは間違いありません。

繰り返しますが、この本は第一級の著作だと思います。
改めて「ペンの強さ」を思い知りました。

メルトダウン ドキュメント福島第一原発事故 (講談社文庫)

メルトダウン ドキュメント福島第一原発事故 (講談社文庫)