しんちゃんの老いじたく日記

昭和30年生まれ。愛媛県伊予郡松前町出身の元地方公務員です。

含羞の保守政治家(その1)

大平正芳〜「戦後保守」とは何か』(福永文夫著:中公新書)を読了しました。

まず最初に、読後の感想を述べると、
清涼飲料水を飲んだ後のように、とても爽やかな気分になりました。

さて、この本のサブタイトルは「戦後保守とは何か」です。
著者は、政治家大平の戦後の歩みと、
その思想・人格・思考スタイルを重ね合わせるとき、
「戦後保守」の一つのイメージが浮かび上がってくると述べられたあとで、
次のように総括されています。
この本の中の、エキスとでもいうべき箇所なので、
いつものように、この日記をメモ代わりにして残しておきたいと思います。

・大平の思想と行動の基底に合ったのは、「農魂」と呼ばれる気質
 〜辛抱強さ、協調性、それと背中合わせにある頑固さである。
 ものごとを一歩下がってあるがままにとらえ、プロセスを尊重し、
 極端や過激を嫌い、忍耐強く合意の形成を待つという彼の人生態度は
 身について離れなかった。

・大平はキリスト教を通じて西洋思想を、漢籍を通じて中国思想に近づき、
 二つの思想が交錯するなかに、自らの政治哲学と実践を見出した。
 それは彼の相反する二つの中心を対峙させ、
 両者が作り出す緊張とバランスのなかに調和を見つけようとする
 「楕円の哲学」と呼ばれる思考スタイルを生み出した。

・彼は政治を多元的・機能的にとらえ、政治に何ができるか、
 政治は何をなすべきか、そして政治は何をしてはいけないかを問い続けた。
 そのリベラルで、デモクラティックな政治姿勢と言い、
 彼は政治の限界を弁(わきま)えた含羞(がんしゅう)の人であった。

・他方、大平は政治をすべての国民がそれぞれの立場で、
 それぞれ得意とする楽器を手にして参加するコーラスに譬(たと)えた。
 そして、政治家の役割を国民の政治参加を促すお手伝いに限定する。
 それゆえ首相のリーダーシップが問われたとき、
 大平は首相にリーダーシップは不要で、
 必要なのはオーケストラのコンダクターの役割であり、
 ハーモニーの維持にあると説いた。
 
著者は、「戦後保守」をこのように書かれた後で、
「政治家・大平正芳」を次のように簡潔明瞭に「定義」されています。
これ以上の評価はないと思わせる、素晴らしい文章でした。

『歴史・言葉・文化の持つ重みを、含羞を持って受け止めることのできる政治家』

そう……、「大平正芳」という人は、『含羞の保守政治家』だったのです。

私は、自分が瀬戸内海を見て育ったせいか、
どうしても贔屓目に見てしまうのですが、
「含羞の人」は、まさに「はにかみ、はじらう」という表現がよく似合う
「瀬戸内海」の風土や文化が育てたものであると確信します。

この本には、いろいろな名言や名文もありました。
とても一日では書ききれないので、日も暮れたことだし、続きは明日にします。

大平正芳―「戦後保守」とは何か (中公新書)

大平正芳―「戦後保守」とは何か (中公新書)