『中曽根康弘~「大統領的首相の軌跡」』(服部龍二著:中公文庫)を読了しました。
帯紙に書かれた「追悼」の文字に惹かれて購入した一冊です。
本書では、印象に残った二つの記述がありました。
その一つは、東大在学中、期末試験中の息子のことを慮って、
危篤状態であることを告げずに急逝した「母への思い」を綴った次の記述です。
『その後の人生において、私はなんどか過酷な試練を経験したが、
そのたびに、私を奮い立たせてくれたのは、この母の愛であったと思わずにいられない。
母の墓前に喜びを供えたい。そう願って私は不断の努力を続けてきたのである。』
もう一つは、2008年に90歳の卒寿を迎えてから、
長寿の心得や長生きの秘訣などを問われた際に答えたという、次のような記述です。
『未来は考えないね。今を充実させていくことで精いっぱいだ。未来は神様が与えてくれるものだ。』
『楽観主義でいけば「必ず道は開ける」』
『悠久の時の流れから見れば、人生は一瞬に過ぎず、長く生きることなどほとんど意味を持ちません。
人生の意味は、いつまで生きるかにあるのではなく、今をいかに充実させて、
命をまっとうするかにあります。もし長生きの秘訣があるとするなら、
そのように生きることだと思っております。
人生が「無限への一過程」と考えれば、一瞬の人生の中で出会い、
人との縁(えにし)の不思議さと有難さを感じずにはいられません。』
はぃ、どういう訳か、私には中曽根元首相の、三公社民営化などの優れた政治実績よりも、
「母親への思い」とか、「人生観」や「人生哲学」について語られた箇所が、ジンと心に響きました。
なお、政治との関連で印象に残ったのは、「キル・ザ・タイム(Kill the time)」という欧米の言葉。
「時間を殺して、今後に備えることが大切」という意味で、
中曽根元首相は、元副総理の石井光次郎さんからのこの助言を受け入れて、
政治家としての無役の期間を、「充電期間」として前向きに考えられたそうです。
中公新書からは、既に「田中角栄」(早野透著)、「大平正芳」(福永文夫著)という
良書が出版されていますが、
「風見鶏」と批判され続けた中曽根元総理の、政治信条や人生哲学を知るうえで、
この本も、是非一読をお薦めしたい一冊です。