しんちゃんの老いじたく日記

昭和30年生まれ。愛媛県伊予郡松前町出身の元地方公務員です。

自分の言葉をもつ

世阿弥の言葉〜心の糧、創造の糧』(土屋恵一郎著:岩波現代文庫)を読了しました。

「初心忘るべからず」や「秘すれば花」などは、
世阿弥の言葉としてあまりにも有名ですが、
本来の意味は次のようなものだと著者は解説しています。

 ・世阿弥にとっての「初心」とは、新しい事態に対応する時の方法であり、
  試練を乗り越えていく戦略や心がまえのことである。

 ・どんな剣の達人でも、思いもよらない技には負ける。
  しかし、そうした秘伝もいったん使ってしまえば、秘密でもなんでもなくなる。
  だから、むしろ使うことをひかえながら、いざという時の技とするのだ。
  それが「秘すれば花」という意味である。

こうしたことを知っただけでも勉強になりますが、
私は、この本の中に出てくる、世阿弥以外の次のような言葉も気に入りました。

 ・1998年のノーベル経済学賞を受賞した、アマーティア・センという経済学者は、
  人間の最も大事なものは、その「可能性」であるといった。

 ・イギリスの18世紀後半の思想家であったエドモンド・バークが、
  フランス革命の破壊的な姿を見ていったように、
  「新しく作られるものよりも、成長持続してきたもののほうが価値がある。」
  ということは、状況によっては正しい。

 ・現代の哲学者ジャック・デリタは、伝統は解体そのものである、と言った。
  伝統が成立するのは、解体を繰り返して
  つねに新しさを生み出してきたからだと言っている。

『知識と言葉は違う。
 どんなに知識があっても言葉をもたなければ、
 その知識は生きたものとして伝わらない。言葉をもつ。
 世阿弥はそれを実践して、なおかつ今も、
 私たちの心へ風とともに心の花を伝えているのだ。』
著者は、この本の「序」で、このように述べられていました。

世阿弥が自分の言葉をもったからこそ、
時代を超えてその言葉は、今を生きる私たちに読み継がれる……。
この本を読めば、「言葉の偉大さ」を知ることができます。

世阿弥の言葉――心の糧、創造の糧 (岩波現代文庫)

世阿弥の言葉――心の糧、創造の糧 (岩波現代文庫)