前の職場の先輩で今の職場の上司から借りた
『不運と思うな~大人の流儀6』(伊集院静著:講談社)を読了しました。
伊集院さんらしい名文が随所にありましたが、
そのなかでも次の二つの文章が印象に残っています。
『私は、弟とも妻とも若い時に別離せねばならなかったので、
近しい人が、亡くなった方のことをしみじみと思い返される姿を、
佳い姿だと思っている。
追憶は切ないが、誰かがずっと忘れずにいることが、
“その人が生きている証し”と思っている。』
『庭に出た。星空が黙ってそこにひろがる。
弟の時も、前妻の時も、私は星空を何度も見上げて、
生還させて欲しいと祈った。今はやすらかかと尋ねる。
死の数年は、弟、妻を不運だと思っていた。今は違う。
天命とたやすく言わぬが、短い一生にも四季はあったと信じているし、
笑ったり、喜んでいた表情だけを思い出す。敢えてそうして来た。
それが二人の生への尊厳だと思うからだ。
彼等も、そして私も、不運とは思わなくなった。
不運ではなく、そういう生だったのだ。不運と思っては、哀し過ぎるではないか。
不運と思うな。そう自分に言い聞かせて、今日まで来ている。』
この二つの文章は、
近しい人を突然に失った人間にはよく理解できます。私の場合は母でした。
私も、気管支喘息の発作で亡くなった母が不運だったと思っていました。
突然の発作に襲われた本人が、一番悔しかったのではないかと……。
でも、自分の年齢が、母が亡くなった年齢に近づけば近づくほど、
母の人生も、それなりに幸せな時間があったのではないかと思うようになりました。
もっとも私の妻は、今でも「あなたが苦労をかけたからだ」と言いますが…。
そして今日、相模原市の障害者施設で、痛ましい事件が起きました。
事故や病気など不運な死ならまだ許せる余地があるけれど、
テロや殺人など不条理な死はどうしても納得できないというのが、
悲報のニュースに接した時の心境でした…。やりきれない思いがします……。

不運と思うな。大人の流儀6 a genuine way of life
- 作者: 伊集院静
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2016/07/05
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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