しんちゃんの老いじたく日記

昭和30年生まれ。愛媛県伊予郡松前町出身の元地方公務員です。

現代を読む教科書

2011年にスタートしたNHKEテレ「100分de名著」が、

本年8月放送のミヒャエル・エンデ「モモ」で、記念すべき100シリーズ目を迎えたことを受けて、

歴代もっとも長く司会を務めた伊集院光さんと

同じく歴代もっとも長くプロデューサーを務めたAさんとの記念対談が、番組HPに掲載されていました。

そのなかには、印象深い次のような対話がありました。


『‥‥いやあ、よく見せたいという気持ちは僕にもあります。

 けれど、文学に関する知識量が少なすぎて、背伸びしたってどうせどこかで絶対にボロは出る。

 それなら分からないことは正直に「分かりません」って言おうと。

 それができたのは、毎回番組に出てくださる講師の先生方が、

 僕がどんなに低いレベルの質問をしても、決して嫌な顔をせずに答えてくれたからでもあります。

 本番中突然思いついたことをどんどんぶつけてしまうんですが、

 皆さん、全然動じずに受け止めてくださるんですよね。』(伊集院)


『私がプロデューサーとして講師を選定するときの一番の基準も

 「伊集院さんがどんなボールを投げても受け止めてくれる人」です。

 びっくりするようなボールが飛んできても、どんな話が出てきても、

 「よくぞ投げてくれました」「それいいですね」と面白がってくれるような懐の深さのある人。

 いわば、伊集院さんにとって「揺さぶりがいのある人」。

 そういう人こそが、実は研究者としても優れているんだと思うんです。』(プロデューサーA)


『こうやって話してくると、「名著」の力というものを改めて感じるんですが、

 番組で取り上げる本はいつも、どうやって選んでいるんですか。』(伊集院)


『まず考えるのはジャンルのバランスですね。

 視聴率がいいのは哲学や宗教系の本なのですが、それだけに偏っても単調になってしまうので、

 やっぱり文学作品もやりたいし、時には「モモ」や「ピノッキオの冒険」のような児童文学も取り入れたい。

 そういうふうに、ある程度はバランスを考えるようにしてしています。

 ただ、一番強く意識しているのは、「今起こっている問題とどうリンクしているか」という点ですね。

 いい本に書かれていることってやっぱり普遍的で、

 時代が変わっても必ず何らかの現実を照らし出してくれるし、

 今私たちが直面している問題について、少し違う見方を提示してくれると思うんです。

 その意味では、唯一の基準は「現代を読む教科書」になっているかどうか、かもしれません。

 そこの視点がぶれなければ、自然とバランスは取れてくると考えています。』(プロデューサーA)


う~む、なるほど‥‥。「現代を読む教科書」ですか‥‥。

長く続く番組の奥深い魅力が、この一言で理解できたように思います。

これからもこの番組が、末永く続くことを期待しています。


追記

「100分de名著」は、ビデオに録画して休日に見るようにしています。

100シリーズの番組の中で、私が最も忘れ難いのは、フランクル「夜と霧」で、

諸富祥彦先生の解説を聞いていた司会の伊東敏恵アナウンサーの目に、

涙がうっすらと浮かんでいたように感じた時です。

私の勘違いかもしれませんが、今もその場面がはっきりと脳裏に焼き付いています。