2011年にスタートしたNHKEテレ「100分de名著」が、
本年8月放送のミヒャエル・エンデ「モモ」で、記念すべき100シリーズ目を迎えたことを受けて、
歴代もっとも長く司会を務めた伊集院光さんと
同じく歴代もっとも長くプロデューサーを務めたAさんとの記念対談が、番組HPに掲載されていました。
そのなかには、印象深い次のような対話がありました。
『‥‥いやあ、よく見せたいという気持ちは僕にもあります。
けれど、文学に関する知識量が少なすぎて、背伸びしたってどうせどこかで絶対にボロは出る。
それなら分からないことは正直に「分かりません」って言おうと。
それができたのは、毎回番組に出てくださる講師の先生方が、
僕がどんなに低いレベルの質問をしても、決して嫌な顔をせずに答えてくれたからでもあります。
本番中突然思いついたことをどんどんぶつけてしまうんですが、
皆さん、全然動じずに受け止めてくださるんですよね。』(伊集院)
『私がプロデューサーとして講師を選定するときの一番の基準も
「伊集院さんがどんなボールを投げても受け止めてくれる人」です。
びっくりするようなボールが飛んできても、どんな話が出てきても、
「よくぞ投げてくれました」「それいいですね」と面白がってくれるような懐の深さのある人。
いわば、伊集院さんにとって「揺さぶりがいのある人」。
そういう人こそが、実は研究者としても優れているんだと思うんです。』(プロデューサーA)
『こうやって話してくると、「名著」の力というものを改めて感じるんですが、
番組で取り上げる本はいつも、どうやって選んでいるんですか。』(伊集院)
『まず考えるのはジャンルのバランスですね。
視聴率がいいのは哲学や宗教系の本なのですが、それだけに偏っても単調になってしまうので、
やっぱり文学作品もやりたいし、時には「モモ」や「ピノッキオの冒険」のような児童文学も取り入れたい。
そういうふうに、ある程度はバランスを考えるようにしてしています。
ただ、一番強く意識しているのは、「今起こっている問題とどうリンクしているか」という点ですね。
いい本に書かれていることってやっぱり普遍的で、
時代が変わっても必ず何らかの現実を照らし出してくれるし、
今私たちが直面している問題について、少し違う見方を提示してくれると思うんです。
その意味では、唯一の基準は「現代を読む教科書」になっているかどうか、かもしれません。
そこの視点がぶれなければ、自然とバランスは取れてくると考えています。』(プロデューサーA)
う~む、なるほど‥‥。「現代を読む教科書」ですか‥‥。
長く続く番組の奥深い魅力が、この一言で理解できたように思います。
これからもこの番組が、末永く続くことを期待しています。
追記
「100分de名著」は、ビデオに録画して休日に見るようにしています。
100シリーズの番組の中で、私が最も忘れ難いのは、フランクル「夜と霧」で、
諸富祥彦先生の解説を聞いていた司会の伊東敏恵アナウンサーの目に、
涙がうっすらと浮かんでいたように感じた時です。
私の勘違いかもしれませんが、今もその場面がはっきりと脳裏に焼き付いています。