今日の愛媛新聞一面コラム「地軸」と日経新聞一面コラム「春秋」には、
それぞれ田中邦衛さんを追悼するコラムが掲載されていました。
この日記には、「春秋」の全文を書き残しておこうと思います。
『白黒テレビの画面に映っていたドラマ「若者たち」は、子供心にも重く響く番組だった。
両親を亡くした5人きょうだいが、世の中の矛盾と格闘しながら生きていく。
激しい議論と、取っ組み合いのケンカ。長男の太郎はちゃぶ台をひっくり返し、妹は泣き崩れる‥‥。
近年になって、全34話をあらためて鑑賞してみた。1966年の放送だが、話はちっとも古びていない。
家族とは何か、学びの意味、格差と差別、愛情と打算‥‥。
こういう真っ正面からのテーマを背負って熱演したのが、太郎役の田中邦衛さんだった。
物語には高度成長期の光と影が交錯し、いまに伝わる名作となった。
同じ時期に田中さんは「若大将」シリーズで「青大将」を演じ、ファン層を広げている。
キザで間抜けなドラ息子だ。
やがて「仁義なき戦い」では、殴り込みのときに姑息(こそく)な言い訳をして逃げるヤクザを演じた。
どんな役にもなりきれるプロだが、共通するのは、
不格好な人間というものをしみじみ感じさせる所作だろう。
その人が88歳で旅立った。「人生はアップで見ると悲劇だが、ロングで見れば喜劇だ」。
チャップリンの言葉を念頭に黒板五郎役を充てたという。
思えば半世紀前の「若者たち」の太郎もなんと深刻で、なんとおかしかったことか。
名優は去り、また映えるに違いない。』
う~む、なるほど‥。「人生はアップで見ると悲劇だが、ロングで見れば喜劇だ」ですか‥‥。
このチャップリンの名言を引用できて、
コラムの最後に、「名優は去り、また映えるに違いない。」という
故人を心から追悼する文章を書くことのできる、
コラムニスト氏の人となりとその才能に、
「不格好な人間」を自覚している私は、敬意の気持ちを表したいと思います。