町立図書館で借りてきた『チョンキンマンションのボスは知っている~アングラ経済の人類学』
(小川さやか著:春秋社)を読了しました。
本書は、「チョンキンマンションのボス」と呼ばれるタンザニア人のカラマを中心に、
香港に住むアフリカ系ビジネスマンたちの日常活動を主に描いています。
本書を読んで、正直、私では絶対生きていくことができない世界を知ることができました。
いくつか印象に残る記述の中で、迷った挙句、次の二つを選んでみました。
『本書で強調した「ついで」は、その人間が持つ精神的/財政的/能力的/時間的な余力である。
だが、香港のタンザニア人たちは、遊休資源や隙間時間の効率的な活用といった目的的な経済の理論で
「ついで」を組織しているわけではない。彼らが「ついで」「無理のないこと」を強調するのは、
それが与え手にとって有効に活用できる「無駄」だからではなく、
「その取るに足らなさ」こそが、それぞれの人生を探しに香港にやってきて、
それぞれのやり方で生きている個々の自律性、互いの対等性を阻害しないからである。
そして、彼らが互いに支援しあうのは、市民社会、環境持続的な社会の実現ではなく、
偶然ではあっても「ともにある」こととなった得体の知れない他者に
「私は、あなたの仲間である」「あなたは、私の仲間である」を表明するためだと思われる。
つまり、彼らは、新しい経済のかたちを動かすためにコミュニティの論理を取り入れたのではなく、
仲間との贈与や分配のためにテクノロジーや資本主義経済の論理を取り込んでいるのである。』
『チョンキンマンションのボスは、不完全な人間とまとまらない他者や社会に
自分勝手に意味を持たせることがどういうことかを知っている。
自分に都合よく他者や社会を意義づけることにより、
裏切られる事態をふくめた不確実性が存在することの重要性を知っている。
彼らの仕組みは、洗練されておらず、適当でいい加減だからこそ、格好いい。』
いゃあ、それにしても、人類学者の先生方は、大変なお仕事をされているのですね‥‥。
そして本書は、市場経済社会を生きる日本人やその社会システムを、立ち止まって考え直す、
そんなきっかけになる本ではないかと思いました。
追記
もう一つありました。カラマの口癖は、「嫉妬は最大の敵」とのことでした。