『あふれる「思想なき保守」』というタイトルの論評を寄稿されていました。
宇野先生は、次のようなことを述べられていました。
『「保守主義」は政治的な立場を論じる際に用いられるが、
真意を理解して使われる例は昨今ほとんど見られない。
男女平等や外国人との共生に抵抗するネット右翼、古いものを無批判に賛美する精神性とは無縁なのに、
それらと同一視する言説が流布している。現代は「曖昧な保守論がインフレした時代」と定義できる。
起源は18世紀半ばまで遡る。欧州で絶対主義や封建主義を打倒する市民革命が起こり、
「社会は理想の未来に向けて邁進(まいしん)する」という進歩主義が興隆した。
フランス革命が顕著な例で、既存の制度一切を白紙に戻し、
望ましい社会をゼロから再構築することを目指した。
模範を過去ではなく未来に求める進歩主義は楽天的で傲慢だとも言える。
歴史や伝統には知恵や配慮が込められているし、私たちの理想通りに人類社会が発展するわけでもない。
急進的な進歩主義を批判して、自由を守る伝統的な制度や習慣を維持し、
漸進的な改革を求める立場として保守主義の思想は生まれた。』
『保守主義は日本に存在したのか。戦後を代表する2人の知識人、丸山真男と福田恆存は、
1960年の安保闘争の頃にはすでに「保守主義の不在」を指摘していた。
丸山は、現行の政治体制を自覚的に守る立場は現れなかったという。
欧米から新しい思想や制度を輸入することにあくせくする日本の伝統は、
保守主義を何かと関連付けることもなく受容した。
その結果、ズルズルとなし崩し的に現状維持を好む「思想なき保守」ばかりが目立つようになった。
福田は、日本における2つの断絶を指摘した。
江戸時代以前の制度や慣習を捨て欧米化に走った明治維新と、
事実上の征服を経験させられた第2次世界大戦での敗戦だ。
過去との連続性が絶たれた社会では、何が自分たちに大切かを共有できず、
保守主義を確立させるのは難しいといえる。』
う~む、なるほど‥‥。
「曖昧な保守論がインフレした時代」、「思想なき保守」ですか‥。鋭いご指摘ですね。
そういう私も、「保守」の真意を理解することなしに、
「保守の論客」、「保守と革新」といった言葉を、知ったかぶりして使用していたように思います。
宇野先生は、今後も保守主義に意味を持たせ続けるには、一人ひとりが「本当に大切なもの」
「保守したいもの」を自発的に問い直し、他者と共有して行動することが必要だとして、
今後はオタク文化や特定の商品や人物に熱狂した人同士の集団(ファンダム)を取り込むことが
保守にとっても重要になりそうで、現代的な通信手段を前提に
「保守」をよりダイナミックに捉えることが求められている、と指摘されていました。
自由を守る伝統的な制度や習慣を維持し、漸進的な改革を求める立場‥‥。
「保守」には「貫く棒の如きもの」が必要なことを、少し理解できたように思います。