昨日に続いて、一面コラムのお話です。
今月1日の全国紙の一面コラムを読み比べていて、
一面コラムは、時によっては、書評の役割を果たしていることに気づきました。
例えば、朝日新聞「天声人語」では、
「学校では教えてくれない!国語辞典の遊び方」(サンキュータツオ著:角川学芸出版)が、
次のように引用されていました。
『お笑い芸人で日本語学の学者でもあるサンキュータツオさんの本が面白い。
「学校では教えてくれない!国語辞典の遊び方」。
200冊のコレクションを誇る「辞書オタク」が読み比べを熱く勧める。
「大人なら国語辞典は二冊持て!」と。
たとえば「恋愛」という言葉を、〈男女間の〉愛情とするものあれば、
〈特定の異性に対して〉と表現するものあり。
〈まれに同性同士〉という記述を定義に加えるものもある。
どれも似たり寄ったりと思ったら間違いで、それぞれ特徴がある。』
次に、産経新聞「産経抄」では、
「三屋清左衛門残日録」(藤沢周平著:文春文庫)が、次のように引用されていました。
『定年後の生き方の指針となった本を挙げてください。
こんなアンケートがあったら、
藤沢周平さんの時代小説『三屋清左衛門残日録』が、上位を占めるのは間違いない。
主人公の清左衛門は、
藤沢作品でおなじみの海坂(うなさか)藩で用人まで上り詰め、今は隠居の身である。
悠々自適の生活を楽しむはずが、たちまち寂寥(せきりょう)感にさいなまれてしまう。
新たな生きがいを求めて一念発起した清左衛門は、道場と塾に通い始めた。
特に子供たちに交じっての塾通いは、
「気持が若返る感じがするばかりでなく、
前途に、宮仕えのころは予想もつかなかった新しい世界がひらけそうな気もして来る」
という。』
実は、朝日新聞「天声人語」は、
7月は文月(ふみづき)と呼ばれることから、
「たまには言葉の海を遊泳して心の肥やしにしたい」ことを述べるために、
また、産経新聞「産経抄」は、
東京都練馬区で、小学生の男児3人が刃物で切られた事件で、
刃物を振り回す男に立ち向かい、
被害の拡大を防いだ学童誘導員さんの勇気ある行動を称えるために、
それぞれ該当の本を引用しているものでした。
両コラムを読んだ後は、不思議な余韻が残り、
なんだか引用されている本を読んでみたくなりました。
読者をそのような気にさせるのも、
両コラムニストの、深い教養に基づいた人間味あふれる文章のなせる業に違いありません。