しんちゃんの老いじたく日記

昭和30年生まれ。愛媛県伊予郡松前町出身の元地方公務員です。

「日常」から「思想」を取り出す

『ぼくらの戦争なんだぜ』(高橋源一郎著:朝日新書)を読了しました。

本書では、大岡昇平の戦争小説「野火」と、向田邦子のエッセイ「ごはん」に関しての記述が、

特に印象に残りました。具体的には、次のような著者のご指摘です。


・「野火」は「彼らの戦争」について描かれていていること、

 あるいは「戦争」を通じて、ついには「世界」の「外」に抜け出していった者たちの物語であること。

・「戦争」が迫っていたとき、ほとんどの人たちは自分の「日常」を手放してしまったけれども、

 「ごはん」の家族は、最後まで「日常」を手放さなかったこと。


そして著者は、『ぼくは、本書のなかで、ずっと同じことを書いているのかもしれない、

それは、「日常」の中から「思想」を取り出すことだ。』と述べられたうえで、

さらに次のようなことを述べられていました。


『どんなに素晴らしい思想や考えも、「借り物」ではなんの役に立たない。ただの知識は、何の意味もない。

 「たのしい知識」とは、身についた知識だ。この世の中で、ひとりで生きてゆく自分を支えてくれる知識だ。

 そのためには、「根」が必要だ。がっしりと大地に根をはって、

 そこから栄養を吸収してくれるような知識でなければ、ぼくたちには必要ないのだ。

 そして、そんな知識を支える「根」こそ、ぼくたちの「日常」なのだ。

 だとするなら、いちばん大切なのは、

 ぼくたちの「日常」そのものを豊かにしてゆくことなのかもしれない。

 そして、そのためにこそ、今度は逆に、「知識」も必要とされるのだ。

 「知識」と「日常」は、どちらかがどちらのためにあるのではない。

 お互いに、お互いを支えるべき友として存在しているのである。』


はぃ‥、引用が少々長くなりましたが、ご覧のように、

本書は、全般にわたって平易で分かりやすい文章で書かれていて、

「ぼくらの戦争」について考えるための、示唆に富む内容が盛りだくさんだったと思います‥‥。