今月2日の愛媛新聞「今月の随想」に、歴史社会学者の小熊英二さんが、
戦前から戦後の価値観の転換を経験したほぼ最後の世代にあたる大江健三郎さんの死去を受けて、
『「戦後」の転換期~価値観問う世代交代』というタイトルの論評を寄稿されていました。
小熊さんは、NHK放送文化研究所が2000年に行った、戦争観に関する世論調査を分析した報告書
「先の戦争と世代ギャップ」における世代区分(1938年以前生まれを「戦中・戦前世代」、
39年から58年生まれを「戦後世代」、59年以降生まれを「戦無世代」)を引用されたうえで、
次のようなことを述べられていました。(大江さんは1935年生まれで、敗戦時には10歳です。)
『‥‥以上を踏まえれば、2023年は二つの意味で「戦後」の転換期を象徴する年と言える。
第一にNHK放送文化研究所が定義した「戦中・戦前世代」の多くがこれまでに死去したこと。
第二に「戦後世代」、つまり1958年までに生まれた人が65歳をすぎ、
メディアや大学、企業その他から引退したことだ。
戦争の直接的記憶を持つ世代の大半が死去しただけでなく、
自分の親が関わった戦争に強い関心や倫理的判断を持つ傾向があった世代が社会の中心から退けば、
戦争と「戦後」に関する社会意識への影響は少なくない。
20世紀後半の日本における政治と文化は、戦争と「戦後」にどう向かい合うかを大きな基準としてきた。
政治における「保守」「革新」や憲法9条の賛否、戦争責任、
近現代史を描いたテレビドラマなどを想起すれば明らかだ。
こうした枠組みの「風化」は指摘されて久しいが、その最終的な段階に入ってきたのが、
2020年代初頭の状況といえる。』
この世代区分に従うと、父は「戦中・戦前世代」、私は「戦後世代」、妻と弟は「戦無世代」になります。
では、娘や孫娘は一括りに「戦無世代」と呼んでいいのかしら?
そろそろ「戦無世代」について、新たな世代区分が必要なのかもしれません‥。
「戦後」は遠くなりにけり、そんな気がします‥‥。
追記
区分の理由については、次のような説明がありました。
・39年生まれは戦後に小学校に入学しており、旧体制下の教育との転換を経験していない。
・59年生まれが16歳になったのは戦後30年後で、青年期の人格形成に戦争の間接的影響が少ない。
・従軍世代の子供は、58年生まれ前後がほぼ最後であろう。